瀧口恵子の珍島物語 | 珍島の倭徳山

2018年06月12日

jindo1806日本には鳴戸海峡がありますね。潮流が音を鳴らすほど激しい海峡なので「鳴戸」と呼ばれていますが、珍島大橋の下を流れる海峡も「鳴梁(ミョンナン)」といい、広い海から一気に狭い海峡に潮流が流れ込み、以前は潮の流れが代わるたび珍島の中心地まで地響きがするほどだったそうです。

今から420年前、この鳴梁海峡で激しい戦が起こりました。慶長2年(1597)、秀吉の朝鮮出兵の際、村上水軍の一族である来島(くるしま)通総が総大将として戦った場所、それが現在の珍島大橋の下を流れる海峡なのです。対する韓国側の大将は、英雄・李舜臣(イ・スンシン)。37才の通総は5本の矢を受け、海に落ちたところを李舜臣の船に引き上げられ、命を絶たれました。その時、日本水軍は130隻、韓国はわずか12隻、鳴戸の激しい潮流を知る通総を先頭に立てて臨んだ戦でしたが、大将の死によって日本水軍の士気は一気に崩れ、その多くは亡くなりました。日本水軍の大部分は、四国の来島水軍の他は海戦に慣れない半農半海の若い人達でした。その死体は沿岸のほうに流れる渦巻きに吸い込まれました。数えきれないほどの日本水軍の死体だったといいます。

時は変わって今から数十年前、珍島大橋が架かる以前のこと、珍島の波止場である碧波港からほど近い古郡面の内山里という村に李基洙というおじいさんが住んでいました。その家系図に「倭徳山(ウェドクサン)」という地名を見つけた地元の郷土史研究家は「倭」という漢字に驚きました。倭は日本を意味するからです。李おじいさんの話によると「幼いころ畑を耕していると、人骨が出てきた。祖父に誰のものかと尋ねると、日本人の骨だと答えた」といいます。畑の隣には土が見えないほど葛のつるが繁茂して放置された古い墓の群れがあります。この付近の人々は「昔、日本兵士の死体が数多く流れ着いたので、その死体を埋めた。ここを倭徳山と呼んでいる」というのです。敵の兵士を埋葬してあげる。まさに「倭」に「徳」を施した山だったのです。葛に覆われた小高い丘には約100基の墓が隠れており、誰も管理をしないまま放置された場所でした。

2006年5月、郷土史家の案内でここに訪問した広島修道大学の教授が日本に帰り、新聞に「韓国の地に眠る来島水軍を知って」という記事を掲載しました。その記事を目にした来島保存顕彰会の会員が珍島に訪れ、倭徳山への墓参りが始まりました。珍島には「珍島シッキ厶クッ」という国家指定重要無形文化財に指定されている死者の霊を弔うシャーマンの儀式があります。盧武鉉大統領や金大中大統領の慰霊祭も行ったほど、韓国国内では有名な儀式なのです。その儀式の技能保有者が、珍島大橋の下で亡くなった日本水軍の霊を弔うための特別な儀式をしてくれました。

その夜、来島保存顕彰会の事務局長の夢に、ざんばら髪、ずぶ濡れの若い日本水軍が現れたといいます。儀式の中で、三途の川を象徴するキルタク厶(道清め)の上を水軍の魂を乗せた船が行き来するのを眺めながら、実は半信半疑だったそうですが、この夢を見てとても感謝したといいます。。悲しい目をした若武者はどれだけこの日を待っていたでしょうか?

日本から倭徳山への参拝は今年で13年目を迎えます。今治から最高の墓石を運び、石塔を建てたいという願いは一部の反対派のゆえにまだ実現していません。

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