瀧口恵子の珍島物語 | 珍島アリラン
アリランは韓半島に伝わる民謡です。韓国はもちろん北朝鮮や中国、そしてサハリンまで、韓国民族の住むところには必ずアリランが歌われています。
ではどうしてこんなにも多くのアリランが各地に伝わっているのでしょうか? そしてアリランの語源はなんでしょうか? 珍島アリラン保存会の資料によると、アリランには古代説と近代説があり、古代説は新羅の始祖、朴赫巨世(パク・ヒョッコセ)の后である閼英(アリョン)が王と共に国内を巡回する時、農作と養蚕を奨励しました。新羅の国民は王妃を称え、閼英を称える歌を歌ったのがアリランになりました。近代説は、1865年、景福宮修築工事の際、各地方から交代で動員された人夫が肉体の疲れを癒すために歌い踊った時に歌われた歌がアリランで、工事が終わった人夫は故郷に帰って各地域に伝えたため、全国にアリランが知られるようになったというものです。アリランの曲調は誰もが憶えやすく、歌詞が単純なので、流行に乗って全国に伝播したと思われます。まさに「足のない言葉が千里を行く」ということわざのようにです。
その中でも特に知られているアリランは、江原道の山間部に住む住民の生活感情を歌った旌善(チョンソン)アリラン、慶尚道の陽気で明るい密陽(ミリャン)アリラン、そしてこの二つの特徴を合わせた珍島(チンド)アリランで、韓国を代表する三大アリランと呼ばれています。では珍島アリランの歌詞はいくつあると思いますか? なんと700を越えるのです。そして珍島の住民は即興で歌詞を作って歌ったりもしますので、歌詞がどんどん増えていきます。
珍島アリランの繰り返し部分の「ウン~ウン~ウン~」というウナリの部分を珍島の民俗音楽を研究する教授は「涙袋」といい、女性の嘆き・悲しみが含まれたものであるといいます。
ではそのいくつかをご紹介しましょう。
「風は手がなくても小枝を揺するのに、私には手があっても、恋しいあの人を引き留めることができない」
「永久の契りを結ぼうと、百年草を植えたのに、百年草はいつしか枯れ果て、別れ草だけ残った」
あと、なかなか微笑ましい歌詞は「夫が来るのですっ裸で寝ていたら、隙間風が冷たくて下痢をした」とか、電気もなかった昔のこと、三代が一緒という大家族で十分に起り得る事件ぽいものとしては「踏んじゃった~、踏んじゃった~、何を踏んじゃった? 舅のアソコを間違えて踏んじゃった~」なんてものもあります。
ほかにも、嫁姑の葛藤は過去も現在も同じらしく、「キヌタを叩きながら、姑が早く死んでくれたらなあと心の底で思っていたら、実家の母が亡くなった」という内容も出てきます。
それではここで問題です! 私が理解できずに主人に質問した歌詞です。「あそこのあの娘、目付きを見ろよ! 籠に乗って嫁に行けそうにないな!」日本語にしたら何となく通じますね。韓国語では「何これっ?」と一瞬理解に苦しんだのです。これは「目付きが色っぽいので普通の結婚は難しいな」の意味なんだそうです。
それやこれや、私の手帳にはこのアリランの代表的な歌詞12個が書かれたメモが収まっています。このメモは私の命の絆なのです。「え、それはオーバーなのでは?」と思うかもしれませんが、決してオーバーではございません! 役所にいますと、いろんな方の案内に駆り出されます。一緒に夕食するまではよいのですが、時にはその場に珍島の国楽人を呼んで珍島アリランの大合唱!!! その後、マイクが端から回されます。知っているアリランを順番に歌うのですが、同じ歌詞の繰り返しはご法度で、歌詞を知らなければ即興で作ってでも歌わなければなりません。歌詞が解らずストップすると罰則で珍島の地酒、アルコール度数が40%の紅酒を一気飲みしないといけません。
この紅酒は、蒸留酒にムラサキという漢方薬の根を使ってルビー色にした、美しいですが、超キツイお酒です。私の実家は異常なほどお酒に弱く、父はコップ一杯のビールでヨレヨレになるし、私はコップ3㎝でひっくり返る。息子に至ってはお酒のにおいもだめなアルコールアレルギーの持ち主という血統的なノーアルコール家系なのです。罰則なんか食らったら即、死に至ります。それでイザというときに備えてメモを秘めているというわけなんです。
最近は現代風にアレンジして「韓国最南端~宝の島~珍島! 人の心は温かく、とても住み心地がよいよ~」などと歌っていますが、実は住み心地がよいなんてとんでもない…今日も命懸けで生きている恵子さんなのです。
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