瀧口恵子の珍島物語 | 珍島犬紀行
皆さん、こんにちは。珍島の瀧口です。今回は珍島犬を紹介します。
現在、珍島の人口は3万3千人。では珍島犬は何頭いるでしょうか? 珍島犬を管理している珍島犬テーマパークに問い合わせてみると、なんと1万1千頭いるそうです。ざっと各家庭で1頭ずつ飼育している計算になりますね。
檻に飼われているのもいれば、村をウロウロしているのもいますが、実は珍島に住んでいるのは、すべて珍島犬なのです。というのも珍島には珍島犬以外の犬を飼ってはいけない法律があるのです。
そんな珍島犬ですが、あまりにも日常的な犬なので、珍島に住んではいても、その価値を知りませんでした。珍島犬の人気が海外にまで知られていることを実感したのは、日本の雑誌に珍島犬の記事を見つけたからです。
日本で有名なムツゴロウこと畑正憲さんの出版した「ムツゴロウの犬めぐり」という本にも珍島犬が紹介されています。この本には珍島犬の狩猟能力の素晴らしさと、主人に忠誠を尽くす姿が描かれていました。
「珍島犬は、一匹だけで山に分け入るのだそうだ。シカを発見すると、倒し、シカの血を頬につけて戻ってくる。飼い主は、その血によって犬の手柄を知り、犬に案内してもらい、シカを手にいれるのである」。また「ある愛犬家が亡くなり、飼っていた珍島犬が姿が見えないので四方八方手を尽くして探したら、飼い主の墓の前で一週間飲まず食わずで墓を守っていた。犬は人間以上だ。人間より純情だ」という実話が載っていました。
たしかにいくら親しい人が亡くなったからといって一週間も飲まず食わずで墓を守る人間がいるかな? と考えると…たぶん…いないでしょう…。
日本語に「犬畜生」という言葉がありますが、辞書には「犬などのけだもの。また道徳に外れた行いをする人をののしっていう語」と出ています。考え直す必要がある言葉ではないでしょうか。
それでは、私の珍島犬体験を紹介します。それは役所勤めを始めたある日のことでした。珍島の中心街で珍島犬の子犬を販売している店のご主人から電話がかかってきました。「日本人ぽい青年が子犬の周囲をウロウロしてる。どうも買いたいらしい」というものでした。韓国語をまったく話せないというので役所まで連れてきてもらいました。その青年(G君とします)はスリッパを履いて不精髭を生やし、どう見ても隣村に住んでる勉強もろくにできない浪人風情(失礼)に見えました。彼は、父親が犬好きで珍島犬を買ってくるよう指令を受け、韓国に立ち寄ったと話してくれました。役所で日本人観光客の案内という立場上「珍島の観光案内をしましょうか?」と言ったのですが、彼は「自分は珍島の観光に来たのではないのです。良い珍島犬を見せてください」。やぶからぼうに良質の珍島犬といわれて途方にくれましたが、珍島犬事務所の紹介で子犬の生まれた家庭を訪問し、雄と雌の子犬の仲人の役割を果たすことができました。
この時、予防接種やら何やらで生後4ヵ月しないと海外に搬出できないことが分かり、しばらく犬を預かることになりました。子犬を預かるというのもかなりの神経を使うものです。特にわが家は昼間留守が多いので、隣村の老夫婦にお願いして犬の餌代と煙草銭を渡し、代理父母になってもらいました。
4ヵ月後、G君が珍島犬を引き取りにきました。飛行機の時間まで余裕があって、我が家で休んでいたのですが、小さい檻の中で窮屈そうにしている珍島犬を可哀想に思ったのか、2匹を散歩に連れ出しました。と、それまではよかったのですが、気性の荒い雌が綱を振りほどいて脱走したのです。高価な珍島犬が行方不明になったのですから大騒ぎ。必死で探すのですが、広い野山を探すしか術がありません。育ての親のおばあさんも動員して村の入り口や、山に向かって犬を呼びます。「ウオ~リ、ウオ~リオヨヨヨ」と狼の遠ぼえのような声で呼ぶんです。私は内心「この呼び方は何?」と思いましたが、心が動揺しているので深く考える余裕がありません。まあ結局、雄の所に雌が帰ってきて事は一件落着しました。
ところで、単独で雌を探していたG君が裏山から涙を流しながら帰ってくるではありませんか。犬を見つけたうれし涙かと思ったのですが、G君はお腹を押さえながらこう言いました。「恵子さん、この珍島犬を育てるには、あの狼の遠ぼえをしないと駄目ですか? 僕、おかしくておかしくて、お腹の皮がよじれちゃった…」彼の涙は犬を見つけた嬉し涙ではなく、笑いすぎの涙だったのです。
あれから無事帰国の報告があり、「日本に珍島犬を紹介するのも生易しいものではないな!」とホッと一息入れた後、ふと思いました。「待てよ? あの珍島犬は狼の遠ぼえで育ててるのかな? あるいは日本式の口笛?」あれから連絡が途絶えて確認の術がないのですが、「犬は言葉でなく、主人の動作で物事を理解する」というということを後から知りました。狼の遠ぼえはあまり関係ないのですね。
この一件は思い出すたびにおかしくて韓国語で珍島新聞に記載しました。記者から「けっこう人気だったよ」という話でありました。
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