〈公演レビュー〉宮:張緑水ストーリー
奴婢から王の女となった
朝鮮時代版シンデレラ
宮:張緑水ストーリー
奴婢から妓女、そして王の側室まで、朝鮮第10代王であった燕山君(ヨンサングン)の側室として劇的な人生を送った張緑水(チャン・ノクス)。韓国の歴史ドラマや映画に何度も登場するほど魅力的なキャラクターであり、実在の人物である張緑水が、貞洞劇場の伝統舞踊劇を通じて観客を迎える。クェングァリ、チン、チャング、プクが調和したサムルノリの軽快なリズムに加え、当代最高の芸術家である張緑水の人生を再現した楽しい舞台は、韓国らしさを探している人に格別で確実な楽しみだ。
文/加藤由香里記者
時は朝鮮時代。朝鮮10代王である燕山君の寵愛を一身に受けた張緑水は、張禧嬪(チャン・ヒビン)と共に朝鮮最高の悪女、妖婦と呼ばれる。特に張緑水は1464年から1506年までの10年間在位した燕山君に絶対的な影響力を行使した人物である。燕山君と朝鮮を自分のスカートの中に閉じ込めた当代の権力者であり、当時の王権と政治的時代相を解析するキーワードとなる重要人物だ。
張緑水は実在の人物だが、その逆転の人生は、どんな映画のストーリーにも劣らない。卑しい奴婢の身分だったが、優れた容貌と才能によって妓女として抜擢され、それからまもなく、特有の官能と優れた技芸で、当時、漢陽(ハニャン:現在のソウル)一の妓女となる。
彼女の才能を一目で見抜いた王室の一族である齊安大君(チェアンデグン)は彼女を自分の家の妓女として囲い、彼女は齊安大君の家で開かれた宴会で運命の人である燕山君に会う。
燕山君は張緑水を見た途端、彼女の技芸と美貌に一目惚れする。迷うこともなく妾として迎えるが、奴婢から朝鮮最高の権力者の恋人である側室となり、まさに「朝鮮版シンデレラ」のストーリーをつくり上げる。
劇の背景となる歴史の話が長くなった。舞踊劇「宮:張緑水ストーリー」は、朝鮮時代、奴婢から宮での第一人者となった張緑水の一代記を扱った作品である。ドラマや映画では、王の後ろで謀略を企み、王を思いのままにして全権を振り回す妖婦として登場したのとは違い、「宮:張緑水ストーリー」は、自分の人生を自分で開拓した「堂々とした芸術家」としての張緑水にフォーカスした。
劇は大きく2幕に分けられる。前半では、妓女になったばかりの張緑水が芸を身に付けて側室として抜擢されるまでの過程を、後半では、側室となった張緑水が自分の苦しかった人生の補償を受けようとするかのように権力欲に酔いしれていく過程を描く。
単にストーリーだけを見ると重いスリラーや悲劇を連想させるが、劇は意外に愉快である。その理由は、華麗な踊りと国楽の楽しさにある。
舞台の幕が上がると、女性の踊り手の軽快な身振りで始まった舞は、やがて打楽器の強烈なリズムと共にサムルノリに変わる。その瞬間、客席から観客を舞台に呼んで「共にする踊り」が開かれると、客席の反応がより熱くなり、劇に溶けこんでいく。
劇中の舞は長くて10分、短いものは2分ほどで、話の展開の優れた道具となる。小正月の「灯の舞」、わらで人形を作って火に燃やす祭儀の一種である「チョンオビノリ」、躍動的な「長鼓の舞」、妓房によく出入りした閑良(遊び人)が踊る「閑良の舞」、宮中で技芸を教える教坊による「教坊舞」、牡丹を利用した「佳人剪牧丹」、そして風流の終わりを飾る船遊びの舞である「船遊楽」などがストーリーを豊かにし、多彩なリズムで美しくつなげていく。
この踊りの意味を解釈する楽しみも格別だ。張緑水の身分上昇という劇の進行に合わせて、民俗、妓房、宮中の芸と拡大しながらより洗練された高級感のある舞に進化していく。踊りを見ているだけで、つたない妓生から宮中の技芸までこなす完熟した妓生の一代記を垣間見ることができ、張緑水の華やかな出世の道を隠喩する演出に、感嘆の声が上がる。
劇のハイライトは、張緑水を引きずりおろそうとする臣下たちとの葛藤の場面だ。張緑水を前にして朝廷の臣下たちは太鼓を持って張緑水を速い太鼓のリズムに合わせて脅し、愛する側室でありながら、朝廷を混乱させた張緑水を追い出さなければならない燕山君が、臣下たちが提出した長い上疏文に体が巻かれままに苦しむ姿は、悲しくも美しいシーンで劇のクライマックスといっても過言ではない。
踊り以外にも朝鮮時代の文化を垣間見ることができる楽しさがある。ドラマと伝統舞踊が一つになった公演らしく、朝鮮時代の妓房の文化、民家の遊びの文化、そして珍しい宮中の宴会の文化を、様々な小物や背景を通して見ることができる。
燕山君と共に悲劇的な最後を迎える瞬間、張緑水はこのように叫ぶ。「この世の中、ひとしきりよく遊んだわ」と。死を前にした瞬間にも宮の最高の座にあった女性としての度胸とプライドを保つ張緑水の豪傑さは、観客の脳裏に張緑水の名前を刻印させる。
俳優たちの熱演も賞賛せずにはいられない。張緑水の人生を踊りによってそのまま溶かしこんだ張緑水役のチョ・ハヌル、堂々とした君主から廃君に没落したコンプレックスの塊の王・燕山君役のイ・ヒョクウン、俳優なりの完璧なキャラクター解釈を通じて、踊りだけで複雑な感情を見事に表現して劇全体を率いていく。
幕が下りるまでの75分間、これといったセリフが一言もなく、張緑水の基本的な知識がない人にはストーリーの完璧な理解に苦戦するだろうが、それなりに親切な日本語字幕も提供(外国人限定のシートのみ)されるため、大きな負担なく楽しめる。
公演は毎週火曜日から土曜日まで、貞洞劇場で午後4時に開かれる。常設公演で、今年の年末まで継続する。入場料は、座席等級別に4万〜6万ウォン。
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