ソウルはただいま読書中~ソウル本屋散策
ソウル本屋散策
ソウルの本屋が変わり始めた。小さな「町の本屋」が脚光を浴び始めたのだ。そんな中、ソウル市とソウル図書館が主催で「本屋散策ソウル」というプロジェクトが始まった。このプロジェクトは、本を探して歩く都心の散策路ということで、望遠、弘大前、延南、梨大前、解放村、梨泰院、景福宮、鍾路、惠化、冠岳、江南という11の散策コースを作り、マップをつくって配布している。その中で、最近ホットプレイスとして人気が出ている延南洞の本屋通りを訪ねて話を聞き、お勧めの本を紹介してもらった。
文/町野山宏記者
作家たちのこだわりのアートブック「サスムチェクパン」
最初に訪ねたのは、「サスムチェクパン(シカ本屋)」。昔の市場を改造してさまざまなイベントを行なうトンジン市場のすぐ脇にある。もとは「ピノキオ」という人気の本屋があった場所で、その人気を引き継いでいる本屋だ。店の中は、本屋というよりは雑貨店のようで、テーブルの上には猫が我が物顔で座っており、独特な雰囲気をかもし出す。この本屋は、シカが好きなイラストレーターと本を作るデザイナーが一緒に運営しており、絵本やアートブックなどを扱っている。ほとんどが外国の書籍で、ヨーロッパやアジア各国を訪ね、作家たちのこだわりが感じられる実験的で個性的な作品を選んで販売しているのが特徴だ。一つひとつの作品に彼らの感性と本に対する愛情が感じられ、手にとって見ているうちに時間が過ぎるのを忘れてしまう。また、本だけでなく、イラストレーターの作品展などのイベントも行なっている。
サスムチェクパンお勧めの本は、フランスのイラストレーターの作品で、製本まですべてハンドメードの味わい深い本。もう一つは、キム・スンヨン作家の絵本。繊細なキャラクターが人気の最近注目を浴びている作家だ。
サスムチェクパンの隣も独特な個性を持った本屋だ。韓国で出版されているインディー出版物を紹介する「ハローインディーブックス」。本を通して発しようとしているメッセージを他の誰かに届けるのがこの本屋の目標。そのため、本にこだわらず、バッグやポスター、ポストカードなどあらゆる形態の商品を販売している。陳列の方法もジャンル別に分けているわけではないため、どこに何があるか、宝探しをするような楽しみがある。2012年にインディー出版物を扱う店を始めて800チームにのぼる作家がここを経たというインディー出版の博物館といえる。
旅行専門書店「サイエ」
少し北の住宅街の中にも魅力的な本屋がある。旅行に関する本を専門に扱う書店「サイエ」だ。本棚には「グルメ旅行」、「青春旅行」、「建築旅行」などのカテゴリー別にたくさんの本が並んでいる。もちろん、地域別にも分けられており、棚の上に平積みされたコーナーは、「台湾旅行」や「東京旅行」など、最近の流行に合わせながらも、扱っている本の一つひとつにはオーナーの愛情とこだわりが感じられる本で、思わず手にとってしまう本ばかりだ。
書店の代表に話を聞くと、最近、東京の本屋巡りツアーをしてきたところだという。そこで買ってきた本がたくさん並んでいた。「『本屋、はじめました』の作家ともイベントをしてきました。ここでも月2回以上、作家を招待したイベントを行なっています」と語る。旅行に行きたくなるような本ばかりだと話すと、代表は「旅行に行けなくても、ここに来れば旅行に行った気分になれる、そんな本屋を作りたかったんです」と語った。
ここでのお勧めの本は、「私たちのパリが思い出されます(チョン・ヒョンジュ著)」。韓国を代表する抽象画家・金煥基(キム・ファンギ)と彼の妻・金鄕岸(キム・ヒャンアン)の愛が金煥基の美しい絵とパリでの写真と共に語られている。
音楽専門書店「ライナーノート」
旅行専門の本屋があるかと思えば、音楽専門の本屋もある。音楽レーベルである「ページターナー」が運営する書店「ライナーノート」だ。モノトーンの洗練された外観の店で、中はスタジオのようであり、ピアノと上質のオーディオ機器が並ぶ音楽愛好家の部屋のようでもある独特な空間だ。扱う本は、ミュージシャンの自伝や評伝、音楽に関するエッセイや音楽が流れる小説など。音楽のジャンルも、クラシックからジャズ、ロックなど多様だ。外国の伝説的な音楽家はもちろん、インディーズで活躍するミュージシャンの音源なども扱っており、本と音楽を愛する人ならばほれ込んでしまう空間だ。
この本屋の代表は、「本が好きな人は音楽も好きな人が多いですよね」と語りながら、「大きな本屋で日の目を見なかった本が、ここで発掘されたらいいと思います」と語った。本屋としてだけではなく、10人ほどの少人数を招いてのライブイベントも行なっているという。
ここでのお勧めの本は、フランスの小説家のアンドレ・ジッドが書いた「ショパンノート」。アマチュアピアニストだったジッドが深く愛したショパンと彼の音楽について書いた本だ。
思索を楽しむ空間「夜の書店」
少し足を伸ばすと、もう一つの個性的な本屋に出会える。「夜の書店」を意味する店名を持つ「パメソジョム」だ。「夜は自分のことを深く考える時間じゃないですか。最初は心理学の本を専門的に扱おうかと思ったのですが、それよりもう少し範囲を広めて、人文系の本や芸術、哲学の本なども置いています」と書店の運営者は語る。
インテリアも独特だ。入口から店の奥まで本棚がレイヤーをなすように並んでいるが、これは映画「今を生きる」でキーティング先生と生徒たちが詩を読んだ洞窟をイメージしたという。暗いトーンの壁も、コウモリのぬいぐるみも洞窟らしさを演出している。
さまざまな趣向も興味深い。お勧めの本を紙封筒に入れて題名を書かずに書評だけを書いて販売する「ブラインドデート」や、詩集をリレーで書き写しするスペースなど、運営者のセンスが光る。オフラインだけで読める店長のイラスト入り手書き日記も人気だという。
ここでお勧めしてくれた本は、人形を使って作った素朴な絵本「アルサタン」と、バレリーナになるという夢を持った少女の話を描いた絵本「踊りを踊ります」。どちらも韓国の作家の絵本で、日本に紹介したい作品たちだ。
延南洞には他にも土曜日だけ開く、「愛」をテーマにした本屋「ドローイングブック・リスボン」など、延南洞ならではの個性あふれる本屋がある。マップ片手に異色なツアーを楽しんでみよう。
Information
ソウル本屋散策のマップ「チェクパンサンチェク」はソウル市庁前のソウル図書館で無料で配布している。また、「ビジットソウル」の韓国語サイト(http://korean.visitseoul.net/)右側の「ガイドブック&地図」からダウンロードすることができる。(韓国語)
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