百潭寺テンプルステイ体験記

2017年05月17日

百潭寺01

 

自分の欲するところを自分に問う贅沢な時間

 

百潭寺テンプルステイ体験記

 

韓国の寺院で仏教の修行を体験するテンプルステイ、最近、日本でも知られるようになってきたが、実際に体験した人は多くはない。そんなテンプルステイを体験してもらおうと、韓国仏教文化事業団が日本の旅行会社を招待するファムツアーを実施した。ツアーでは、2018年の平昌冬季オリンピックを控えた江原道の3ヵ所の寺院、月精寺(ウォルチョンサ)・百潭寺(ペクタムサ)・洛山寺(ナクサンサ)を訪ね、それぞれでテンプルステイのプログラムを体験した。そのうち、宿泊しながら体験した百潭寺でのテンプルステイを紹介しよう。

文/町野山宏記者

 

今回訪ねた寺院の名は百潭寺(ペクタムサ)。百の池を意味する名を持つこの寺は、韓国一の名峰といわれる雪岳山(ソラクサン)にある。韓国では、全斗煥・元大統領が隠遁生活をしていた寺として有名だ。また、僧侶になる人たちがまず最初に修行をする「基本禅院」と、30年以上の経歴を持った僧侶が個室に数ヵ月から数年に渡って一人で修行をする「無問館」があることで知られる。それだけ世間とまったく離れた生活ができる山奥の寺院だということが分かるだろう。

百潭寺に行くには、大型バスを降りてマウルバスに乗り換えて山道を20分ほど走っていかなければならない。舗装されていない道を車に揺られて寺の前までたどり着いた。寺の前を流れる川を見て、まず参加者たちの感嘆の声が上がる。どこまでも続くかのような河原には、河原の石を積んだ石の塔が無数に立てられている。

寺に着くと、まず宿所に荷物を置いて、作務衣を思わせるテンプルステイ用の服に着替える。宿所は瓦葺の伝統建築だが、部屋はきれいでトイレとシャワーが各部屋についているため快適だ。

最初のプログラムは「食べる供養」。寺で行なわれるすべての行為は「供養」なのだという。そのため、夕食をいただくという行為もここでは重要な供養の一つなのだ。バイキングスタイルで自分が食べられる分だけをとっていただく。食べるときも、一口ひと口、よく味わいながらゆっくり食べる。普段、食事をする時は、過去のことを考えたり未来のことを心配したり、「今、ここ」にいないことがほとんどだ。しかし、「どんな味がするのだろうか」とよく味わうことによって、現在に心を集中させることができるというわけだ。もちろん、食べることに集中するため、周りの人と話すこともなく、自分に集中する時間となった。

ゆっくりと充実した食事を味わった後は、僧侶とお茶をいただく時間となった。日本でも茶道はあるが、韓国では韓国独特の茶道がある。この日の茶談の時間を担当してくださったのは尼さんだった。温和な微笑みを浮かべる尼さんは、人の心を開かせるような魅力を持っていた。

お茶のセットが各自の座布団の前に置かれ、尼さんの説明についてお茶を淹れ、いただく。慣れない手つきでお茶を淹れるが、「うまく淹れようと思わなくてもいいですよ」と尼さん。ああ、確かにそんなことを思っていた。

茶葉を急須に入れ、少し冷ましたお湯を入れて、急須の中で茶葉が開くのを感じてみる。静かなお寺の部屋で急須の中に心を集中させると茶葉の開く音が聞こえるのだという。お茶を茶碗に注ぎ、香りをかいで、口に含み、よく味わって、飲み干した茶碗の空いたのを感じる。一つひとつの動作に体も心も集中させた。

尼さんがその時に話してくれたのは、「自分に対して、『今日は君に何をしてあげようか』と訊いたことがありますか?」ということ。仕事や家事や勉強など、忙しい日常の中で、自分が何を欲しているのか、自分がどうしたら幸せになれるかを考えたことがあるだろうか。いや、それを自分に問うてみたことがあっただろうか。「自分と向き合う」ということがどういうことなのかを感じる時間となった。

最後の一杯を飲みながら、「これから自分にこれをしてあげようということを3つ考えてください」と尼さん。その後、自分にしてあげることを発表する時間を持った。それぞれが思ったことを発表する中で、「考えに考えたけれど、けっきょく、何をしてあげたらいいのか分かりませんでした」という参加者もいた。「今まで一生懸命生きてきたんですね。これから考えたらいいのです。ただ、いつでも自分に問うことを忘れないでください」と尼さんは締めくくった。

風の音さえも聞こえない静かなお堂の中で、お茶を淹れる音と尼さんの声だけが心にしみこみ、涙を流す参加者も少なくなかった。

この夜最後のプログラムは「タプトリ」という塔を回る時間。すっかり暗くなり、提灯だけがあたりを照らす中、極楽宝殿の前に集まった。蓮の形をしたろうそくに火をつけて、一つひとつ受け取った。「会ったこともない誰かのために祈ったことはありますか?」と尼さんは語る。ろうそくはここを訪れた人が願いを込めて奉納したものだった。ろうそくを見つめながら、その人の願いが叶うことを祈った。そしていよいよ「タプトリ」の時間が始まった。ろうそくを手に持って、尼さんについて一列になって歩いていく。今度は自分のために、自分に何をしてあげたいかを考えながら。
仏様の舎利を収めたという塔の周りを回り、河原のほうへ歩いていく。水の音を聞きながら橋を渡り、もう一度引き返して塔の前に戻ってきた。五感を邪魔するものが何もない中で、ひたすら自分のことだけを考える贅沢な時間となった。

 

百潭寺02

石の塔を積み、人生を考える

次の朝、「食べる供養」をした後は、散策と石塔を積むプログラムを行なった。川を渡り、川に沿って伸びる林の中の道を尼さんと共に歩いていく。林の道に入る前、前を歩く尼さんが足を止めた。「私はいつも、林に入る前に訊くんです。『林よ、今日も遊びに入っていいかい?』と。皆さんも訊いてみて、『いいよ』という答えが聞けた人から入りましょう」。

林の中を、川のせせらぎの音を聞きながらしばらく歩くと、開けたところにやってきた。澄んだ川の水は深い青を湛え、思わず感嘆の声が漏れる。尼さんは「ここが『わあ!』ポイントの一つです」と笑った。

ここでいよいよ石の塔を積む。「石の塔を積むのは人生に似ています。見栄えのいい大きな石を選んで積んでも、小さな支えの石がなければすぐに崩れてしまいます。自分の人生で、その小さな支えの石はなんだろうかと考えながら積んでみてください」という尼さんの言葉を聞いてから、思い思いの場所で塔を積んだ。

この川は、テンプルステイを体験しにここを訪れた人たちが積んだ石の塔が無数に立っている。「これらの塔の寿命は長くて365日、短い場合は1日です。永遠なものはないんですね。雨が降って川が増水すると倒れてしまいます。ここを訪ねてきた人がそれを見て『ああ…』と惜しがるのですが、私は塔ががらがらと崩れる姿を見てとても気持ちがいいんです」と尼さんはいたずらっ子のように笑った。

この日はファムツアーであったため、短い時間しか体験ができなかったのが惜しい。ゆっくりと時間をとって再訪し、自分だけのための時間を持ってみたい。

 

百潭寺03

 

Information

百潭寺までは東ソウルバスターミナルから高速バスで「ヨンデリ(百潭)」下車。寺まではマウルバスを利用。所要時間は高速バスが約2時間半、マウルバスが約20分。テンプルステイのプログラムは1泊2日から2泊3日、日帰りなど、さまざまなコースがある。また、このほかに宿泊と食事だけの「休息型」のコースもある。申し込みは百潭寺テンプルステイ(韓国語)で可能。

百潭寺:http://www.baekdamsa.org/

百潭寺テンプルステイ:http://baekdamsa.templestay.com/

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