筆洞ストリートミュージアム

2017年05月17日

現代アートを路地で楽しむスタンプラリーに出発しよう

 

筆洞ストリートミュージアム

 

streetmuseum01 最近、韓国では都市再生が盛んに行われており、古い家屋をカフェやコミュニティースペースに改造して地域の再生に役立てる事業があちらこちらで見られる。鍾路区の益善洞(イクソンドン)などが代表的な例だ。益善洞には1920~30年代に建てられた改良韓屋が残っているが、ひなびた住宅街にはおしゃれな店に改造され、若い人たちがデートで訪れるホットプレイスに変貌した。

このような活動には芸術家たちの力が大きい。それまで誰も見向きもしなかった、再開発を待つだけだった町が、芸術家たちの感性によっておしゃれな町、文化の町となっているのだ。そんな芸術家たちによってホットプレイスとなりつつあるソウルのある地域を紹介しよう。

その主人公は、ソウル中区の筆洞(ピルトン)。明洞からも近く、南山コル韓屋村があるため、外国人観光客にもなじみの深い町だろう。韓国内では印刷と映画の町として知られている。その町に「ストリートミュージアム」という企画がなされてきた。始まったのは3年前の2014年。裏道の小さなギャラリーや劇場、道路に現代美術作品を展示して、訪れた人たちが無料で鑑賞できるようにしたプロジェクトだ。既存の展示空間だけではなく、道端のデッドスペースに展示空間をつくり、まさに通り自体が美術館になっているのだ。今回、そこに新しい「マイクロミュージアム」という企画が始まったということで、さっそく訪ねてみた。

地下鉄4号線忠武路駅の4番出口を出て少し歩くと、大通り沿いにコンテナボックスが置いてある。その正面はガラス張りになっており、その中にジャングルの中を写したような半立体の絵画作品が展示されていた。雑多なビルが建ちならぶ中で、異色なようでもあり、不思議に溶け込んでいるようでもある。その前にある駐車場の入口には、天井にパラグライダーで飛ぶゾウが吊るされている。すでにストリートミュージアムの世界に入り込んでいるのだ。

小さな食堂やゲストハウスなどが並ぶ路地に入っていくと、道の両脇にはすでに作品があふれていた。色とりどりの模様が描かれたキャンバスで覆われたデザイン会社や、ペンギンとシロクマが遊ぶ氷の国が描かれた幕に覆われた立体駐車場など、楽しい世界がつくりだされている。

さらに進むと三叉路が現れ、その正面にはギャラリー、カフェ、デザイン書籍の店などがあるが、書店がこの展示のインフォメーションセンターを兼ねている。パンフレットをもらって簡単に説明を聞いてみると、「芸術通(イェスルトン)」という団体が運営しているプロジェクトだという。ストリートミュージアムのマップに、作品を展示しているところに備えられているスタンプを全部押すと、カフェでコーヒーなどがもらえるということだった。さっそくスタンプラリーに出発した。

まず、この三叉路の周りにも多くの作品が隠れている。セメントで作られた、ちょっとぶっきらぼうそうなおじさんのオブジェ。劇場の壁に踊るカラフルな「花」や「春」の文字。小石と針金で作られたジャガー。普通の美術館などで出会えるような作品が通りのあちこちにたたずんでいる。日常の空間で出会うためか、なぜか親近感が沸く。

三叉路の周辺には、今回新しく設置した「マイクロミュージアム」が並んでいる。柱の上に黒い金属製のボックスが乗っており、箱の上の窓から覗き込むと、映像作品が鑑賞できる。箱の上面が画面なのではなく、箱の底のほうにある画面を覗き込むようなかたちになっているため、映像作品というよりは小さなインスタレーションのような感覚に近い。今回は映像作品だけを展示しているが、これからは絵画作品やオブジェなどの展示も行う計画だという。現在の展示「風景」は5月17日まで。

マップを見ながら歩いていくと、すぐにいろいろな作品が目に留まる。道端に巨大な鉛筆が立っていたり、休憩所の屋根の上に悪魔のようなキャラクターが乗っていたり、駐車場の管理事務所が繊細なイラストに覆われていたりしながら、路地の雰囲気を異次元に変えている。ソウルのどこにでもあるような家屋やビルの日常的な風景が混在しており、パラレルワールドに入り込んだような錯覚さえ覚える。

そして作品が新しく設置されたからといって、住民や通行人の邪魔になるのではない。ゴミの不法投棄がされていたデッドスペースや、歩道橋が撤去されて空き地になった小さなスペースなどが利用されているのだ。細い路地と広い道路との間の階段下につくられたギャラリーは、「巣」と名づけられ、ギャラリー自体がスチールで作られた鳥の巣を思わせる外観だ。街角で不思議な生物に出会ったかのようなシチュエーションを演出している。

 

streetmuseum02

 

 

ストリートミュージアムの作品は、路地だけではなく、南山韓屋村の中にまで続いている。南山韓国村はソウル市が指定する民俗資料韓屋5棟を移転・復元しているが、南山韓屋村を通る道沿いに三つの展示が設置されている。ギャラリーの形も目を引くもので、韓屋村に遊びに来た人の関心も引き、スタンプを押している姿が見られる。スタンプラリーを楽しみながら、韓屋村を散歩してもいいかもしれない。

すべてのチェックポイントでスタンプを押したら、出発地点に戻って、最後のスタンプを押してもらおう。同じ建物の右端にあるカフェ「B24」を訪ね、スタンプ用紙をカウンターに持っていくと、スタンプと共にコーヒーかアイスティーがもらえる。このカフェの中にも作品が展示されているため、コーヒーで一休みしながら、作品を見ておこう。

この「ストリートミュージアム」を運営する「芸術通」は、毎年5月と10月、「芸術通路地祭り」を行っている。路地での展示はもちろん、三叉路でのパフォーマンス公演や、三叉路に面した「コクーン・ホール」でのコンサート、さまざまな体験などが催される。定期的な祭りのほかにも、コンサートや作家の講演など、多彩なイベントが行われるため、旅行の日程に合せてどんなイベントが行われるのかを調べておくのもよいだろう。

美術館から抜け出して大衆と疎通を始めた韓国の現代アート、これからの動向が見逃せない。

 

Information

地下鉄4号線忠武路駅4番出口から約50m直進し、「スタービルディング」を過ぎて左折。三叉路の正面にある「芸術通」のインフォメーションセンターでスタンプ用紙をもらって出発する。スタンプラリーの参加費は無料。南山コル韓屋村の入場料も無料。

http://streetmuseum.co.kr/

www.facebook.com/yesultong

Pocket

関連する記事はこちら

난타

NANTA、日本震災義援金1億ウォン伝達

NANTA、日本震災義援金1億ウォン伝達   韓国を代表する文化公演であり、世界的なノンバーバル(nonverbal:非言語)パフォーマンス「NANTA」が、日本大地震の被害復旧のために1億ウォンの寄付を行った。 NANTA側は先月3月21日、大韓赤十字社に日本地震被害…続きを読む

동화마을

仁川の童話の主人公になる 松月洞童話村

童話の主人公になる 松月洞童話村 松月洞(ソンウォルドン)童話村(ドンファマウル)は、その名の通り’童話’をテーマに地域全体が華やかに飾られた村である。入口に着くと、’松月洞童話村’と書かれた大きな虹の形の看板が見える。左側の最初の 路地に入っ…続きを読む

40e0cc4dedf4ed0a2ca432252b2e5cba-150x150

ユネスコ世界遺産の地で出会う新羅王国の遺産

ユネスコ世界遺産の地で出会う新羅王国の遺産 慶州に位置する貞洞劇場慶州が新作伝統音楽「讚耆婆郎歌」を通じて観客と出会う。新羅国の最精鋭武士である「花郎」として、最も勇敢だと噂される「耆婆」を主人公に、青年・耆婆が最精鋭武士として成長していく過程を、新羅の歴史と文化とを交えながら紹…続きを読む

서브01-세븐럭강남점

<撮れ立てレポート>ゴージャスなマネーゲーム、「セブンラックカジノ」

今夜、幸運の女神と出会う。 ゴージャスなマネーゲーム、「セブンラックカジノ」   韓国の夜を楽しむ方法はいろいろある。高級なカフェやスカイラウンジでお酒を飲んだり、ソウルタワーに登って美しいソウルの夜景を満喫し、一晩で不夜城となる東大門ファッションタウンでは朝までショッ…続きを読む

메인A

韓国観光公社ウェルネス観光25選特集 -下-

今までにないワンランク上の韓国旅行 「食べて遊んで楽しみながら 美しくなるしあわせを満喫 韓国ウェルネス観光」 韓国観光公社ウェルネス観光25選特集 -下- 健康的な生活を追求する人のためのとっておきの旅行である「ウェルネスツアー」が旅の世界的なトレンドとなっている。疲れた心身を…続きを読む

공연_파이어맨_메인

ノンバーバル・パフォーマンス 「ファイヤーマン」

消防士のアクションと笑いで 暑さをふきとばそう!    韓国旅行で出会う代表エンターテイメントジャンルであるノンバーバル・パフォーマンス系に新たな作品が登場した。タイトルは「ファイヤーマン」。消防士を主人公にアクロバットと、道具などを使わずに都会の建物を移動するエクスト…続きを読む

차이나타운2

仁川の圧倒的な歴史の深さを誇る 仁川チャイナタウン

圧倒的な歴史の深さを誇る 仁川チャイナタウン 仁川チャイナタウン。バスで行くこともできるし、車でも行けるが、地下鉄で行くことをお勧めする。 仁川行きの地下鉄1号線に乗って終点まで行けばよいからだ。一駅手前の東仁川駅までは急行列車で速く着くことができる。 でも、急行列車が先にきても…続きを読む

IMG_0240

大田の近代建築を巡る

韓国の近代史に触れるレトロな旅 大田の近代建築を巡る  大田(テジョン)市に観光に行くと言えば、たいてい帰ってくるのは「大田に何があるんだ」という言葉だろう。しかし、大田には他にはないいくつかの魅力的なスポットがある。そのスポットを訪ねるべく大田に足を向けた。 文/町野山宏記者 …続きを読む


東海岸圏経済自由区域01
東海岸圏経済自由区域02

  • travel agence