韓国ART散歩 | 煥基美術館
韓国最高の抽象画に最高の空間で出会う
煥基美術館
2017年11月27日、青い色調の一枚の絵が香港でのオークションで2800万ドル(約39億ウォン)で落札された。この「モーニングスター」という題の半抽象画は、韓国の美術品では最高額で落札される、樹話(スファ)・金煥基(キム・ファンギ)画伯による作品。最高額を4月に更新したのは65億ウォンで落札された彼の点画で、今回の作品も点画を除く作品では最高額だという。そんな話題の尽きない金煥基画伯の作品をまとまって鑑賞できる空間が、ソウル鍾路区の付岩洞(プアムドン)にある「煥基美術館」だ。ここで金画伯の作品に触れた瞬間、その価格の意味するところを感じることができるだろう。
文/町野山宏記者
光化門からバスに乗って北に向かう。大統領府である青瓦台の脇を抜けると、だんだん山道に入ってくる。北漢山が右手にそびえる坂道を登り、ソウル城郭を抜けると、そこは付岩洞。山に囲まれて坂の多い土地に住宅街が広がり、小ぢんまりしたレストランやカフェもあってわざわざ訪れる人も少なくない。「コーヒープリンス1号店」や「華麗なる遺産」などのドラマのロケ地にもなったため、外国人観光客も多く訪れる地域だ。そして付岩洞は芸術の街でもある。ソウル美術館をはじめ、多くのギャラリーが点在し、ソウル城郭の門となる彰義門(チャンウィムン)の隣には詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ)を記念した尹東柱文学館もある。
そして、付岩洞で芸術散歩を楽しむなら、外せないのが「煥基美術館」だ。韓国最高の抽象画家・金煥基画伯の作品を所蔵・展示する美術館だ。金煥基画伯の死後、画伯の妻・金郷岸(キム・ヒャンアン)女史が設立した煥基財団によって建てられた美術館だ。金郷岸女史が夫と彼の作品をどれだけ愛していたかが分かる。
1913年、日本統治時代に生まれた金煥基画伯は、1930年代に日本に留学して抽象画と出会い、前衛的な美術運動にも参加した。西欧的な様式を研究しながらも韓国的なアイデンティティーを追求した彼は、1956年、パリへ旅立った後も韓国的なモチーフの抽象画を試みた。彼の代表的なモチーフとなる白磁の壺もパリ時代に端を発している。1963年、第7回サンパウロビエンナーレに韓国代表として参加して好評を得た彼は、その地位に安住することなくニューヨークへ向かった。そして1974年に他界するまでより抽象画の表現を突き詰め、韓国を代表する抽象画家として世界にその名を知らしめた。
彰義門前の三叉路を右に折れ、二股に分かれる道を左にしばらく進むと、右手に美術館が見える。ハングルをモチーフにした街灯のような作品が目印だ。門を入るとまた道は二手に分かれるが、左側の階段を上がる。庭園もきれいに整えられ、それだけでもいい気分になってくる。階段を上ったところにある建物でチケットを買う。この建物もカフェ兼小さなギャラリーとなっている。
さて、いよいよ美術館の展示室へ。この美術館の建物は斜面に沿って階段状に建てられているのが特徴。四角い建物の上にかまぼこ型の屋根が二つ、そしてそれを外の階段が囲むように登っている。地形に調和した導線だけでなく、この土地で採掘した石材を壁に使うなど、よりこの環境に調和するようにつくられている。抽象画でありながら韓国の自然を思わせる金煥基画伯の作品を思わせるような建築だ。
3階建ての展示室も階段で下から上りながら観覧するようになっているが、一つひとつの展示室が独特で、空間の配置や光の入り方、作品の見せ方など、すべてにおいて緻密に計画されており、展示室を移るたびに驚きを禁じえない。空間自体も美しいが、その中で金煥基画伯の作品が圧倒的な存在感を持って見る者に語りかけてくるため、その場にずっとたたずんでいたい気持ちになってくる。そして一つひとつの展示室は独立していながらも、その上階の展示室から見下ろすこともでき、作品や空間を違う方向から鑑賞することができるのもこの美術館の特徴だ。見る角度や距離によって作品から受ける感覚が違ってくるため、何気なく過ぎ去った作品も違う角度から見ることで、はっとさせられることもある。そのような驚きに満ちた空間だ。おそらく金煥基画伯のそぎ落とされた抽象表現だからこそ生まれた緊張感であろう。もちろん、金画伯の作品に特化された美術館として計画された建築であることはいうまでもない。
作風はさまざまだが、青を基調とした点描が有名だ。無数の点を描き、その点を一つひとつ囲んで大きなキャンバスを埋めている。無数の星が集まって宇宙を形成しているように、無数の点が宇宙をも思わせる一つの作品を形成しているのだ。そしてある作品は、その点の群れを分けるように何本かの白い筋が通っている。それらの直線と、点の群れが成す面とがせめぎあう緊張感は、作品に視線を固定させてしまう。崇高でありながら温かみを感じる不思議な作品たちだ。
3階まで展示を見終えたら、外の階段を下りてくることをお勧めしたい。外にもいくつかの野外彫刻が展示されているだけなく、周囲の自然に調和した建築の美を感じることができるはずだ。
展示室は本館だけでなく、入り口を入って右に向かう通路を伝っていくと、小さな展示室がある。「樹郷山房(スヒャンサンバン)」と名づけられており、金煥基画伯の号である「樹話」と妻の金郷岸女史の名前から一字ずつをとった名前で、これは彼らが城北洞で新婚生活をした家の名でもある。その家は現在、他の人が住んでいるが、この美術館を付岩洞に建てたのは城北洞に町の雰囲気が似ているためだという。樹郷山房は本館とは違って小さな作品が展示されているが、これらの作品も見逃すには惜しいすばらしい作品たちだ。
作品も建築も、写真で見るのと実際に見るのとではまったく違う。特に煥基美術館はその違いが顕著に現れる例だと思っていい。ぜひ一度訪ねてその感動を味わってみてほしい。
Information
煥基美術館
地下鉄5号線光化門駅から1020、7212番の市内バスに乗り、付岩洞住民センター下車。徒歩約5分。
観覧時間:10時~18時 休館日:毎週月曜日、1月1日、旧正月と秋夕の連休期間 入場料:展示による
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