〈新作映画〉徳恵翁主

2016年09月21日

大韓帝国最後の皇女の人生に投影された悲しき朝鮮の歴史

徳恵翁主 朝鮮の最後の皇女「徳恵翁主」がホ・ジノ監督演出の映画で日の目を見ました。「こんな皇女がいたの?」と初めて知った人も多いかと思われます。主人公の名前は、李氏朝鮮の王・高宗と後宮の間で生まれた娘で、「李徳恵」。日韓の暗黒の時代の歴史の犠牲者となった女性を描いた映画です。

実は、同じ時期に、韓国では映画「仁川上陸作戦」もヒットし、「フィクションが加味された実話」を描いた歴史的な映画だっただけに、ちょうどこの終戦(韓国では「光復節」)の8月15日の時期に同じような映画が出たのも、韓国社会では意味のあるもののようでした。

朝鮮第26代王である高宗が、60歳を過ぎて授かった末娘・徳恵翁主は、権丕暎(クォン・ビヨン)作家の原作小説「徳恵翁主」でもすでに知られていますが、原作が徳恵翁主と娘の正恵にフォーカスが絞られているのに対し、映画では徳恵翁主をとりまくさまざまな登場人物の物語が興味深く描かれています。

俳優のキム・デミョンが演技した爆破シーンで登場した金奉国は日帝占領下に実存した独立運動家です。1919年、3・1独立運動に参加した彼は、その後も独立運動を続け、1926年に日本警察に逮捕された後、5年間の服役を終えましたが、監獄での疲労で3ヵ月後に亡くなりました。また、日本で徳恵翁主と結婚させられた日本皇族出身の旧対馬藩主・宗家の当主である宗武志も実存人物です。仲がよかったと伝えられていますが、この映画でも夫婦の仲よく描かれていました。他にも印象に残った登場人物が何人もいます。

この映画を観ると、やはり日韓関係や日本統治時代のことについて考えざるを得ません。この映画の背景となる当時の日本は、すべての韓国人を日本人化させる政策をとっていました。そのために韓国人の精神的な要であった王族と政略結婚を敢行したわけですが、その代表例が、徳恵翁主の結婚でした。徳恵翁主を日本人と強制的に政略結婚をさせたことに対し、韓国国民は憤慨したと伝えられています。

徳恵翁主

結婚後、娘・正恵を生んだものの彼女の結婚生活は長続きしませんでした。彼らの離婚については、日本人夫に関する同情論もあるようです。しかし、一国の翁主の立場から他の国に連れて行かれて、日本人と結婚すること自体が徳恵翁主にとっては恥辱だったのではないでしょうか。

歳月がたち、1945年の終戦後、祖国に帰りたかった徳恵翁主ですが、政治的負担を感じた韓国政府によって帰国を拒否されてしまいます。そしてやっと帰国できたのは終戦から17年後、日本に来たときから数えると38年後の1962年のことでした。

帰国の途に就くまでの徳恵翁主の姿は、家族を失い、娘も失い、自らの自尊心も失い、祖国からも見放された、どん底の状態でした。誰にも知られずに精神病院の独房にいた徳恵翁主を探し当てたキム・ジャンハン(朴ヘイル扮)。彼の目に映る徳恵翁主の姿は、なんとも情けなくつらい韓国の王族の悲劇を見るようです。

徳恵翁主

 

徳恵翁主

それとは逆に、入国拒否にあっている徳恵翁主の横を、親日派の韓澤秀が悠々と帰国の途につきます。実際に国を売りはらった人間ですが、その身分をうまく隠しながら、韓国に重要人物として受け入れられて帰国していくのです。もちろん、あの場面はフィクションでしょうが、社会に残る不条理を監督があのような場面を通して描こうとしたのはないかと思い思います。

徳恵翁主に関する歴史的資料はそれほど多くないため、知られていないことも多いようですが、徳恵翁主を独立運動に参加したように扱ったことを問題視している人もいるようです。それも映画として、実際実存した人物の数奇な人生をドラマチックに描いた映画として見る分には、面白い素材ではありました。

ただ、映画に登場した韓国民族の悽惨な姿は事実であり、監督はそれを感じてほしいという訴えになっていたと思います。監督が映画を見る観客に伝えようとするメッセージは、実際の事件の真偽ではなく、実は実際に苦しんでいる人たちがいるという事実であったのかなという思いがしました。

最後に、この映画を見ながら、「ラストエンペラー」が思い出されました。辛亥革命により、その地位を失った清の最後の皇帝「ブイ」が思い出されたのです。1908年、幼くして皇帝に即位した彼の波乱万丈の人生は、ある意味では徳恵翁主とほぼ同時代に生きた2国の王族の没落の果てを見せているかもしれません。景福宮を走り回る幼い徳恵翁主の姿はブイの姿と重なりました。きらびやかな王族の生活から、一気に悲運の主人公に変わってしまう切なさを両方の映画は語ってくれました。

また、最後まで渾身の演技で徳恵翁主を演じきったソン・イェジンの演技力は、本当に高評価をしたいし、大きな拍手を送りたいと思います。

文/小峰明記者

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