〈2019今年の観光都市〉お茶の香りと潮の香り漂う韓国の隠れた宝石…康津郡

2018年11月08日

 韓国の南端は海岸が入り組み、美しい海洋観光地として人気だ。統営、南海などは特に有名で、一度は名前を聞いたことがあるかもしれない。それでは康津(カンジン)はどうだろうか。その名前を聞いたことのある人も少ないかもしれない。しかし、2016年に「康津訪問の年」を自ら宣布し、来年2019年には韓国政府が認定する「今年の観光都市」に選ばれたといえば、関心を持つだろうか。そんな韓国南部の隠された宝石・康津郡を紹介しよう。

文/町野山宏記者

 

康津郡を見下ろすようにそびえる山・月出山(ウォルチュルサン)の周辺には、康津の歴史を語る観光地が点在しており、月出山の絶景と調和して美しい風景を作り出している。

その一つ、無為寺(ムウィサ)は617年に元暁大師(ウォニョテサ)によって創建された寺といわれている。寺にある建物の多くは朝鮮時代に建てられたものだが、中でも寺の中心となる極楽宝殿は世宗12年(1430)に建てられたもので国宝13号に指定されている。無為寺の極楽宝殿は、韓国の多くの寺のように丹青を塗りなおしていないため、寺の長い歴史を物語っているかのようだ。屋根の様式も切妻屋根になっており、独特の美しさをかもし出す。

また、極楽宝殿の中にはもう一つの国宝である阿弥陀如来三尊仏壁画がある。国宝のほかにも宝物を数点所蔵しており、文化財に出会うだけでも価値のある訪問となる。

IMG_9465

無為寺から遠くないところには朝鮮時代の学者がつくった白雲洞(ペグンドン)庭園がある。處士(チョサ=政府の位に就かない在野の儒学者)李聃老(イ・ダムノ)がつくった林の庭園で、それを復元したものだ。駐車場から林の中の散策路をたどって、自然とたわむれながらしばらく歩くと、塀に囲まれた簡素な伝統家屋が現れる。ここが白雲洞庭園だ。門をくぐると、情感あふれる伝統家屋が並んでいる。コイが泳ぐ四角い池の前には東屋が建っており、斜面の上のほうにはさらに幾つかの家屋が建っている。板の間は庭に向かって開いているため、そこに座って庭の景色を楽しむには最適な空間だ。李聃老はここを訪れた友と風流を楽しんだのだろう。

この庭園が復元されたのには、ここを訪れた丁若鏞(チョン・ヤギョン)の功労が大きい。水原華城の建設での功績が知られる丁若鏞は康津で18年間の配流生活を送ったが、その時に白雲洞庭園を訪ねてその美しさに感銘を受けて、詩を詠み、白雲洞庭園の「12景」を定めた。また、艸衣禪師(チョイソンサ)に白雲洞庭園を描かせ、その詩と12景と絵画は「白雲帖」という書物に収められた。そして「白雲帖」の発見によってこの白雲洞庭園の復元がなされたのだ。

庭園の中の「12景」の各所には「白雲帖」の絵と説明が記された案内板が立てられている。庭園の中の小高い丘の上には東屋が建っており、白雲帖の絵はここからの眺めを描いたものであることが分かる。庭園の向こうには月出山がそびえ、美しくこの風景をまとめている。

IMG_9482

しばらく庭園でくつろいで裏のほうへ抜けて歩くと開けた場所に出る。その景色が圧巻だ。草木がうっそうと茂る林の中を歩いて、突然目の前に広大な茶畑が広がるのだ。そしてその向こうには月出山がそびえており、その視覚的な効果もあいまって、思わず歓声が上がる。月出山の周辺は昔から寺を中心に茶畑が多く、その質もよいことで知られている。丁若鏞が「茶山(タサン)」という号を持ったのは、薬としてお茶を愛したからだといわれており、康津のお茶を「天下で2番目によいお茶」だと賛辞を惜しまなかったという。

IMG_9488

康津の北部でもう一つ興味深いのが全羅兵営城だ。1417年(太宗17年)に設置されて1895年(高宗32年)に廃止されるまで陸軍の総司令部だった。城の内部は甲午農民運動で焼失してしまったが、城郭は大部分が残っており、当時の姿を見せている。城は全長1060m、高さは3・5mの勇壮な姿を見せる。城の復元工事も進められており、城門の上には当時の楼閣が再現されている。城門を突破しようとする敵軍を背後から攻撃する「甕城」と呼ばれる城の構造なども興味深い。

全羅兵営城は韓国を初めて西洋に知らせたオランダ人の船乗り・ヘンドリック・ハメルにちなんだ遺跡でもある。ハメルは1653年に交易のために日本を訪れる途中に済州島で難破し、13年間幽閉されたが、その後に帰国を果たし、「ハメル漂流記」を著して朝鮮の様子を西洋に知らせた人物だ。ハメルは7年間、全羅兵営城を築く労役を課せられたという。

ハメル一行の朝鮮における生活は不幸なものだったが、現在、康津郡はハメルの故郷であるオランダのホルクム市と姉妹都市となっており、全羅兵営城の近くには、当時の世界と韓国の様子を遺品などで展示した「ハメル記念館」が建てられている。また、この一帯を「オランダ村」として造成する計画で、すでに巨大な風車が作られている。

ハメルの痕跡はそれだけではない。この一帯の家々が人の背ほどの塀によって囲まれているが、その塀が独特だ。平たい石をおよそ15度の角度で斜めに並べて積み上げたもので、これはハメル一行が伝えたオランダ式の塀の作り方だといわれている。異国の技術にもかかわらず、何気ない田舎の村の景色にすっかり溶け込んでいるのが興味深い。

 

自然の宝庫・康津湾でアウトドアを満喫

康津郡の北で歴史観光地を楽しんだら、今度は南に下りてきて、自然とアウトドアを楽しもう。
まずは康津の中心街から近い康津湾生態公園を訪れてみよう。南海に面した康津郡は、内陸までぐっと入り込んだ入り江によって天然の良港として知られている。その入り江の奥は耽津江と康津川が海に流れ込み、70万㎡に及ぶ芦の原を形成している。芦原には、韓国の南海岸の11の河口の平均の2倍に達する1131種の生物が生息している。自然観察の場としては最適というわけだ。

康津湾生態公園には木製の散策路が芦原の間を通っており、気持ちのよい散歩が楽しめる。広い空の下で、芦がさらさらと風になびく音を聴いてみよう。鳥の鳴き声に耳を傾け、小さなカニやムツゴロウの姿を観察するのも楽しいだろう。

IMG_9507

さらに南に下りて、康津湾を本格的に楽しもう。康津湾は、南北に細長い湾の中央に浮かぶ駕牛島(カウド)によってアルファベットの「A」を形作っており、康津郡は「Aへの招待」というキャッチフレーズで観光客を迎えている。そして「A」の横棒を表す駕牛島は、康津郡を代表する人気観光地だ。

駕牛島は両側の岸に橋で連結されており、海辺の風景を眺めながら島に渡っていく過程も楽しい。島の頂上から対岸へジップラインが走り、気持ちよさそうに降りていくのが見える。空中に張ったワイヤーにぶら下がって下りていくジップラインは、絶景を堪能しながらスリルも味わえる人気のアトラクション。駕牛島のジップラインは出発する建物が康津の名産品である青磁の壺を象っているのも興味深い。

橋を渡って島に上陸すると、島の周りには木製の散策路があり、変化に富んだ駕牛島の景色を楽しみながら散策ができる。アップダウンも大きくないため、気楽にゆったりと散策を楽しんでみよう。韓国の南端に位置するためか、南国を思わせる木々も目に付き、異国情緒満点だ。

駕牛島を楽しむアトラクションは散策やジップラインだけでなく、ジェットボートとヨットも人気だ。猛スピードで海上を走り回るジェットボートは、大人も思わず歓声を上げてしまうレジャースポーツだ。アクティブなアトラクションよりは優雅に海を満喫したい人にはヨットがお勧め。50人が乗れる大型のヨットで駕牛島のクルージングを楽しむ。ゆったりとしたキャビンで過ごすのもよし、デッキに出て気持ちのよい海風に吹かれるのもよし、思い思いの方法で楽しもう。ジュースやワインも無料でサービスされ、船上パーティーを楽しむセレブのような気分が味わえる。

yacht_slider01

 

Information

康津郡まではソウルからKTXで木浦まで(2時間30分)行った後、バスで康津まで(50分)行くのが便利だ。ソウルから康津まで直接バスで行く場合は高速バスターミナルから4時間30分所要。光州を朝に出発して康津の観光地を回り、夜に光州に戻るシティーツアーも運営している。

| http://www.gangjin.go.kr/culture/index.do

Pocket

関連する記事はこちら

公州市長

<インタビュー>忠清南道 公州市 呉施徳市長

世界が認める 歴史文化都市として成長、 公州市   Interview 忠清南道 公州市長 呉施徳 世界遺産に登録された百済の都は3つの時代に分かれる。その2番目の時代である熊津時代は、当時熊津と呼ばれた今の公州市に都を築いた。63年という短い期間であったにもかかわらず…続きを読む

仁川中華街

仁川開港場Walk ~近代と現代が共存する街を旅する

地下鉄1号線の終点である仁川(インチョン)駅の開港場は異国情緒が溢れる。中華街を象徴する牌楼が異邦人を迎え、その向こう側には日本人が過ごした近代の建物が開花期の姿をそのまま表現している。韓国の中の外国として栄えた仁川のかつての姿を見てみよう。 文/李相直記者 空港で馴染み深い仁川…続きを読む

IMG_4971-

ソウルから1時間半、忠清南道・公州レトロ散策

ソウルから1時間半、忠清南道・公州レトロ散策  百済の歴史遺跡がユネスコ世界遺産に登録されて、世界から注目を浴びている忠清南道の公州市だが、百済の遺跡ではないもう一つのスポットが韓国で人気を呼んでいる。それは近代の公州の街の様子が残る旧市街の旅。韓国では「原都心」と呼ばれ、レトロ…続きを読む

IMG_6481

寄稿| 小説「少年が来る」の舞台、光州を訪ねて

小説「少年が来る」の舞台、光州を訪ねて ― 5.18民主化抗争を想う 文/佐々木静代    韓流ドラマや韓国映画のロケ地巡りの旅があるように、韓国文学の舞台や作者の故郷を訪ねる旅があってもいいのではないだろうか? 「文学で旅する韓国」ツアーはそんな発想から生まれた。この…続きを読む

経済自由地区地図

韓・日・中・露をつなぐ最高価値のビジネスコンプレックス 東海岸圏経済自由区域

 東海岸圏経済自由区域(East coast Free Economic Zone)は、江原道が先端エコ素材産業や世界の観光・レジャー産業の育成、国際物流・ビジネス団地と国際都市造成を通じ、江原道東海岸地域を環日本海圏の経済中心地として建設するために開発されている経済自由区域(F…続きを読む

송도리포트_메인

仁川国際空港から一足、都心で満喫する一風変わった逸脱

  夕日が沈む頃。仁川松島国際都市を散歩するにはいい時間だ。セントラルパークに灯りが一つ二つ灯り始めると、都市は幻想的なムードを醸し出す。そびえたつ摩天楼とビル群は大都心ソウルを思わせるが、海と湖と森が都心を囲み、穏やかな海風と悠々自適なボートに水路に似合うカフェ通りが…続きを読む

부여-정림사지-여름--중앙에서-북쪽으로-(5)

百済歴史を巡る扶余の旅

2015年、ユネスコ世界遺産に登録された百済歴史遺跡地区。忠清南道の扶余郡と公州市、全羅北道の益山市の全部で8ヵ所の遺跡が百済の古の歴史を今に伝えている。その中心となる扶余郡にある百済の遺跡を紹介しよう。 文/町野山宏記者   扶余郡は今から1500年前、三国時代の強国…続きを読む

현대

車好きにおススメ! 現代自動車蔚山工場

単一工場としては世界最大の規模、現代自動車蔚山工場 現代自動車は名実共に世界屈指の自動車会社で、蔚山工場は単一工場としては世界最大規模であり、総敷地面積は約500万㎡、年間160万台の自動車生産能力を誇る。 輸出専用埠頭には一万台余りの自動車が並び、見事な眺めを披露する。   P…続きを読む

東海岸圏経済自由区域01
東海岸圏経済自由区域02