ソウル駅高架が車道から歩道へ~ソウル路7017を歩く
5月20日、ソウル路7017がオープンした。ソウル駅を見下ろして線路の両側を40年間にわたってつないできた高架道路が市民の憩いの場として生まれ変わったのだ。空中歩道となった高架道路の愛称は「ソウル路7017」。「70」は高架道路が建設された1970年を意味し、「17」は生まれ変わった2017年と、ソウル路によってつくられる17の道を意味する。話題を呼んでいるソウル路7017とその周辺の興味深いスポットを紹介しよう。
文/町野山宏記者
高架道路が建設されたのは1970年。多くの工事を行って「ブルドーザー」の異名をとる金玄玉(キム・ヒョノク)・ソウル市長の号令によって始まった事業だった。金市長は自身が主導した臥牛アパートの崩壊事件の責任をとって辞職したため参加できなかったが、高架道路の竣工式には当時の朴正熙大統領夫妻がテープカットを行なった。この事業がどれほどの注目を得ていたかが分かる。
それから数十年、道路の老朽化による問題が出始めていた。1985年にはすでに崩壊の危険性が提起され、2006年には安全等級がD等級という判定を受けた。撤去か、再建かの中で、朴元淳(パク・ウォンスン)市長の選択は「再活用」だった。紆余曲折の後に、2015年12月13日、道路は閉鎖され、補修工事が始まった。
今回の高架道路リモデリングの設計をしたのは、オランダの建築事務所MVRDVのヴィニー・マース氏。設計の公募で当選した彼の設計案は、「ソウル樹木園(The Seoul Arboretum)」。高架道路の上に円形の植木鉢を設置し、韓国に自生するさまざまな木を植えるというものだ。最終的に、645の植木鉢に228種、2万4085本の木が植えられた空中歩道となった。
また植木鉢だけでなく、各種の施設も設置されている。案内所や「ソウルロショップ」、「木蓮カフェ」、「あじさい食パン」や「バラキンパプ」などのテイクアウト食堂、公演場、子供用トランポリンなどがある。旧ソウル駅舎をリニューアルした文化空間「文化駅ソウル284」の前に降りる階段をつくる計画は霧散してしまったが、その位置に7日間だけ、廃棄された靴で作られたオブジェ「シューズ・ツリー」が設置され、話題を呼んだ。
満を持してオープンした5月20日、本格的な夏が到来したかのような暑い日差しが照りつけたにもかかわらず、10万人を越える市民が訪れた。ソウル路は24時間開放しており、夜にはLEDの照明が神秘的な光景を演出した。
ソウル路の周辺にも隠れた見所がたくさん
ソウル路7017により、高架道路の周辺の、これまであまり知られていなかったスポットが注目を浴び始めている。ソウルの街歩きがブームとなっており、地域にまつわる歴史や、近隣の住民しか知らないような話を聞きながら歩くツアーも頻繁に行なわれている。その中で代表的なスポットを紹介しよう。
まずは一番近い「文化駅ソウル284」から紹介しよう。前述したようにここは1925年に建てられたソウル駅舎だった。設計は塚本靖で、アムステルダム中央駅をモデルにしたといわれている。2011年に複合文化空間としてオープンし、昔のインテリアを残したまま展示などを行なう場所として使われている。
ソウル駅の北にある線路を渡る橋は塩川橋(ヨムチョンギョ)。この橋のたもとには70年代から営業をしているという靴屋通りがある。昔、使い古した米軍のブーツを修繕して売ったのが始まりで、ソウル一の靴屋通りだった。最近ではさまざまな広報のためのイベントを行なっている地域だ。
塩川橋から西の方に、レンガ造りの聖堂が立っているの見えるだろう。丘の上に立つこの薬峴(ヤッキョン)聖堂は、ソウルで最初に建てられた西洋式の聖堂だ。典型的なゴシック様式の聖堂で、結婚式のメッカ。ドラマでおなじみのロケ地でもある。残念ながら火事で焼け、2000年に再建されたものだが、その美しさはそのまま残されている。
薬峴聖堂のすぐ近くには、斜面に沿って階段状に建てられた古いアパートがある。薬峴聖堂の経済活動のためのアパートで「聖ヨセフアパート」と名づけられている。他では見ることができない風景であるため、多くの人がカメラを持って訪れる。
忠正路駅の近くには、9角形の小塔が印象的なレンガ造りの洋館がある。現在は「忠正閣」というイタリアンレストランになっているが、もとは漢城電気会社のエンジニアであるマクレランが住んでいたといわれている。
この近くには韓国最初のアパートである「忠正(チュンジョン)アパート」もある。暖房用の煙突がそびえ立つ中庭の不思議な空間は多くの人をひきつける。朝鮮戦争の時には北の軍に占領され、首都奪還後は国連専用のホテルになるなど、紆余曲折の多い歴史も興味深い建物だ。
この他にも韓国の近現代史を生き抜いてきた多くの場所があり、それらを巡るウォーキングツアーも催されている。(http://japanese.visitseoul.net)
関連する記事はこちら
故宅で儒教の精神に触れ、市場で田舎の人情に出会う 慶尚南道
故宅で儒教の精神に触れ 市場で田舎の人情に出会う 慶尚南道、河東・山清・咸陽・陜川 慶尚南道を訪ねたことはあるだろうか。海の絶景が楽しめる統営や南海、桜が咲き乱れる軍港祭で知られる昌原など、人気の観光地は多い。しかし、海に近い観光地はよく知られているも…続きを読む
韓国観光公社の海外広報映像「安東編」が人気!
(Feel the Rhythm of Korea youtubeより) 韓国観光広報のバイラル映像であるアンドン(安東)編がモッポ(木浦)、カンヌン(江陵) 編とともにYouTubeとFacebookにて今月13日から公開された。 この映像は観光公社が過去7月末に海外広報のため…続きを読む
韓・日・中・露をつなぐ最高価値のビジネスコンプレックス 東海岸圏経済自由区域
東海岸圏経済自由区域(East coast Free Economic Zone)は、江原道が先端エコ素材産業や世界の観光・レジャー産業の育成、国際物流・ビジネス団地と国際都市造成を通じ、江原道東海岸地域を環日本海圏の経済中心地として建設するために開発されている経済自由区域(F…続きを読む
<インタビュー>忠清南道 公州市 呉施徳市長
世界が認める 歴史文化都市として成長、 公州市 Interview 忠清南道 公州市長 呉施徳 世界遺産に登録された百済の都は3つの時代に分かれる。その2番目の時代である熊津時代は、当時熊津と呼ばれた今の公州市に都を築いた。63年という短い期間であったにもかかわらず…続きを読む
ソウルから近場の地方旅行「忠清南道 冬の4都市物語」
韓国の冬は厳しい。零下10度はざらな中で、外に出るのも億劫になってしまう。それでも韓国の冬ならではの楽しみがある。そんな韓国の冬の地方旅を楽しみたいという熱烈韓国ファンのために、ソウルから少し足を伸ばせば行ける忠清南道の旅行地をまとめてみた。 文/町野山宏記者、写真/石麟哲記者 …続きを読む
公州・扶余・益山を巡る百済歴史紀行
聖なる名「百済」、ユネスコ世界遺産の地を訪ねて 世界が認めた百済文化の出発点、百済の都「公州」 公州は百済の第2の都である熊津があったところだ。韓半島の北方地域を掌握していた高句麗に漢江流域を奪われ、追われるように降りてきたのだが、雨降って地固まるというごとく、百済…続きを読む
智異山の麓、儒教と山参の里、慶尚南道・咸陽郡
韓国の南に、韓国で最初の国立公園がある。慶尚南道、全羅南道、全羅北道の3ヵ道にまたがる智異山を中心とした智異山国立公園だ。北漢山の5倍という広大な面積を誇る智異山は、その面積や峰の数などの数字だけでは表せない様々な奥深さを持つ山だ。そんな智異山の一部を占める慶尚南道…続きを読む
カラフルな街・大邱をカラフルに楽しむ、2016大邱の祭り9選
ここ数年、ソウルや済州に偏っていた観光客の足が少しずつ大邱に向き始めている。「それでは大邱はどんな都市?」という質問に対しては、人によってさまざまな答えが返ってくる。それを一言でいい表すとすれば、大邱市のキャッチフレーズとなっている「カラフル大邱」だ。カラフルな魅力を持った大邱…続きを読む