丸ごと楽しむ慶尚北道 ① 〈清道、慶州、浦項〉新羅の古都、柿ワイン、運河クルーズ
韓国の歴史観光のメッカといえば、慶州だ。三国時代の争いの歴史に終止符を打って統一を果たした新羅の都だったため、歴史的遺産が多く残っている。慶州だけではない。その周辺に魅力的なスポットが点在しているのが慶尚北道だ。その中でも慶州市、浦項市、清道郡を訪ねてみた。
文/町野山宏記者
柿ワインを堪能し、雲門寺で休息…清道郡
三つの市郡の中で最初の訪問地として選んだのは清道郡。大邱市の南側に接している郡で、大邱市からのアクセスも抜群だ。日本ではそれほど知られてはいないが、上質の観光コンテンツがいっぱいだ。
最初に訪ねたのは「清道邑城(チョンドウプソン)」。地方の官庁を守っていた城で、高麗時代からのものだと推定されている。周囲は1880mで、朝鮮時代の8ヵ所の邑城のうち、現在までその姿をとどめるものは水原城とここだけだという。
邑城の前には気持ちのよい田園風景が広がっており、清道の村を見渡すには最高のロケーションだ。城壁の前には蓮池や東屋があり、文化解説士の話では、春になると果樹園に花が咲き乱れるという。「令」の字が書かれた色とりどりの旗が立つ城壁の上を散歩していくと、ときどき城壁に突出した部分がある。これは「チ」といって、攻め込んでくる敵を効率的に攻撃するためのものだという。
邑城の脇には石氷庫がある。冷蔵庫のない時代、食物を保存するために、冬に凍った川の氷を持ってきて貯蔵したのが石氷庫で、清道邑城の石氷庫は中に入れるのが特徴だ。地面を掘って石を敷き、その上には石で造られたアーチで蓋をしている。本来は土をかぶせて氷が外気になるべく触れないようにしているが、ここでは土が取り除かれているため、構造がよく分かり興味深い。このように天井をアーチ型にしたのは、熱い空気が天井の真ん中に集まって推移蒸気になって抜けやすいようにするためだという。
清道は柿の名産地で、柿でつくったワインも人気だ。その柿ワインを近代文化遺産と共に楽しめるのがワイントンネル。1904年、日本が韓国に鉄道を敷設することによって、清道にもトンネルがつくられた。1937年まで使われていたこのトンネルは、線路が移転することで歴史の裏へ消え去ることになったが、2006年から柿ワインの貯蔵庫として生まれ変わった。
早く訪れた初夏の暑さの中でもトンネルの中は涼い。冬は暖かく、一定の温度を保たなければならないワインの貯蔵庫としては最適なのだという。柿ワインの試飲ができるスペースもある。実際に飲んでみたが、柿の味と渋みがよく調和して、ブドウのワインと比べても遜色のない味だった。ここでは4種類のワインが試飲でき、購入もできる。
トンネルの奥は、地域の芸術家の作品を展示するギャラリーとなっているだけでなく、さまざまな楽しい展示がなされている。少し距離は長く感じるが、最後に大きなサプライズが待っているため、途中で引き返さずに歩くことをお勧めしたい。
最後に、清道から慶州へと抜ける道にある「雲門寺(ウンムンサ)」を訪れた。雲門寺は557年、新羅の眞興王の時に創建された千年古刹。高麗時代の歴史書「三国遺事」が執筆された場所であり、新羅時代の優秀な人材を輩出するための団体である「花郎」に「世俗五戒」という戒律を授けたところでもある。
美しい松の林を抜けて、寺の門をくぐると最初に見えるのが、天然記念物180号となっている松の巨木だ。枝が下に向かっているが、これは仏の前で姿勢を低くしなさいという教えが込められているといわれている。このほか、雲門寺には8つの宝物(日本の重要文化財に相当)がある。慶尚北道の有形文化財に指定されている巨大な楼閣である萬歳楼(マンセル)の奥にある大雄宝殿(毘盧殿と呼ばれている)も宝物の一つで、宝物835号に指定されている。大雄宝殿の中にある「毘盧遮那三身仏会図」は宝物1613号だ。仏画の向かいには、般若龍船という船が天井から釣り下がっており、その下には童子が船から垂れた綱にしがみついている。これは極楽浄土へと向かう船に乗ろうと必死になっている大衆の姿を描いたものだという。韓国語で必死な様を「アクチャクガッタ」というが、この童子を「アクチャク童子」と呼んでいる。何か自分の姿を見るようで、思わず笑いがこぼれる。
雲門寺は現在は、比丘尼(尼僧)たちが修行する道場となっており、境内で比丘尼の姿を見かけるだろう。修行している領域に一般の人が入ることはできないが、自然の中でヒーリングを感じるには充分な場所だ。
仏国寺で仏教美術を観覧し、東宮院で鳥と遊ぶ…慶州
慶尚北道を代表する観光地・慶州は、古の都の姿を今に伝えている歴史観光地。その中でも代表格は、ユネスコ世界遺産に登録された仏国寺(プルグクサ)だ。
仏国寺は、新羅時代の景徳王10年(751年)に宰相の金大城によって建立が始まり、774年に完成した。最盛期の8世紀には60棟の建物が建っていたが、朝鮮時代の仏教弾圧によって荒廃し、現在の寺は近年になって復元されたものだ。
仏国寺の見るべきところの一つが、紫霞門まで昇っていく33段の階段で、下の17段を「青雲橋」、上の16段を「白雲橋」という。階段の下はアーチ型の橋となっており、優雅で精巧につくられていることから国宝第22号に指定されている。
青雲橋と白雲橋を昇ることはできないが、紫霞門の右側にある坂道から寺の中心に入ることができる。仏国寺には大雄殿を中心とした彼岸世界、極楽殿を中心とした極楽世界、毘盧殿を中心とした蓮華蔵世界の三つの世界がある。本殿となる大雄殿の前には東側に多宝塔、西側に三層石塔(釈迦塔)があり、それぞれ国宝20号と21号に指定されている。この二つの石塔は新羅時代からそのまま残っているもので、均整の取れた美しさに目が釘付けになる。その隣の極楽殿は文禄慶長の役で消失して再建されたものだが、国宝第27号に指定されている「金銅阿弥陀如来坐像」が奉安されている。
仏国寺と共に世界遺産に登録された石窟庵も、新羅の時代の仏教文化を今に伝える貴重な遺跡だ。創建されたのは仏国寺と同時期の新羅の景徳王15年のこと。新羅仏教美術の最高傑作とされる石窟寺院だ。花崗岩でつくられたドーム状の石窟の中に、本尊である釈迦如来坐像をはじめ多くの仏像が安置されている。
石窟庵は日本統治時代に発見され、解体・復元工事が行われたが、その後湿度の調節ができず、やむを得ず人工の換気システムが設置されて、残念ながらガラス越しの観覧となっている。本来は自然の力で温度と湿度が保たれていたが、それが失われてしまったわけだ。新羅の人々の高い文化と技術をうかがい知ることのできる遺跡だといえる。
慶州には月池(雁鴨池)と呼ばれる美しい人工の池を中心とした東宮という庭園がある。新羅の文武王の時に別宮としてつくられ、広大な池にさまざまな植物を植えて、鳥や動物などを飼っていたという。この東宮を現代的に再解釈して再現したテーマパークが東宮院(トングンウォン)だ。植物園とバードパーク、農園体験施設などがあり、家族連れに人気だ。
興味深いのはバードパーク。新羅を建国した朴赫居世(パクヒョッコセ)が卵から生まれたという伝説にちなんで、鳥類だけでなく、卵から生まれるさまざまな動物を扱っている。ここでは実際に鳥たちに触れることができるのが最大の特徴だ。色とりどりのオウムが飛ぶオリの中に入ると、スタッフが両腕いっぱいにオウムをとまらせてやってきて、オウムを観光客の腕にとまらせてくれる。オウムたちは人懐っこく、自分から飛んできて肩にとまったりもするほどだ。他のオウムは「アンニョンハセヨ」と挨拶してくれたりもする。
東宮院のもう一つの見所は植物園だ。新羅の宮殿をモチーフにした国内最大規模のガラス温室に、400種類の熱帯植物が植えられている。温室内部には高い位置に歩道がつくられており、背の高い熱帯植物を上から眺めることもできるのが特徴だ。
東宮院と共に、最近人気を得ているのが、校村マウルだ。韓屋が建ち並ぶ民俗村だが、お金持ちの崔氏家門の屋敷があって、意義深いところでもある。村には伝統茶のカフェや韓国料理専門店などがあり、さまざまな体験ができる施設も人気だ。茶道、天然染色、ガラス工芸、陶芸などが体験でき、広場では韓国の民俗遊戯も体験できる。韓服のレンタルもでき、韓服を着て散歩することもできる。
崔氏家門の屋敷も見逃せない。崔氏の家門がこの村に定着したのは朝鮮中期のことで、それから12代、400年にわたってここで生活してきた。崔氏の家門はただのお金持ちではない。代々その財産を守ってきただけでなく、9代にわたって科挙に及第して進士となり、貧しい隣人を助けるなどの模範的な生活をして、人々の尊敬を受けていた。家訓は「進士以上の役には就くな、財産を1万石以上貯めるな、客は厚くもてなせ」など多岐にわたり、まさにノブレス・オブリージュ(貴族の義務)を実践した家門だった。このような精神を学ぶ「崔富者アカデミー」も、ここ校村マウルで一日または一泊二日の日程で行われている。
校村マウルの名物ともいえる「校村キムパプ」も欠かせない。週末になれば行列ができるほどで、これを買うために校村マウルを訪れる人もいるほどだという。このキムパプの特徴は、細く切った薄焼き卵がたっぷりと入っていること。他にはないここだけの味を試してみてはいかがだろう。
韓国で栄えた日本人街の痕跡を歩く…浦項
慶尚北道で日本との関係が深い場所を挙げるとしたら浦項だろう。日本統治時代に日本人が集まって住んでいた村が当時の姿をとどめており、国内外で人気スポットとなっている。
浦項の中心街から山を越えてたどり着いた九龍浦(クリョンポ)は、日本統治時代に香川県の漁師たちが移り住み、漁業で財を成した村だ。村の中でも一番の実力者だった橋本善吉の屋敷が残っているが、広い庭を持った2階建ての立派な屋敷で、「ここは韓国か」とわが目を疑うような和風の住宅だ。通りには日本家屋と思われる家が見られ、カフェなどに使われている。考証が甘いところはご愛嬌だが、韓国の中の日本人街がどのような姿だったのかを想像するには申し分ない町だといえる。
この町の中心には石段があり、その上には神社の址が残っている。神社の建物はなくなっているが、狛犬や手水桶は当時の姿をとどめている。また大きな石碑が建っているが、これは九龍浦の発展に力を注いだ十河彌三郎の功労をたたえる碑だった。解放後、碑文はセメントで埋められたが、十河氏の功労を認める人によって碑の撤去は免れたという。石段にも寄付者の名前が刻まれているが、解放後にすべて埋められてしまった。しかし、十河氏の名前だけは消されずに残っている。日韓の悲しい歴史の中にも心温まるエピソードが残っているのだ。
浦項は韓国で最も早く日が昇る場所として有名だ。その岬が虎尾串(ホミゴッ)と名づけられているが、朝鮮半島を虎にたとえた時に尻尾の部分に当たるためにその名が付けられた。初日の出の名所として多くの観光客が訪れる。
虎尾串には多くの人々が一緒に日の出を眺められる広場があり、韓国の正月には欠かせないお雑煮を1万人分作ることができる釜がある。海の中には海上に突き出した手の形をしたモニュメントが立っている。「共生の手」と名づけられており、陸地にも同じ手のモニュメントがあり、海の上に立つものと対になっている。
虎尾串にあるさまざまなモニュメントにまぎれて見落としがちだが、虎尾串の灯台も見所だ。1908年に初めて灯りが点され、今でも現役で海を守っている。何といってもそのフォルムの美しさは群を抜いており、普段は近くから眺めることも難しいが、離れたところからでもぜひ見ておきたい名所だ。
浦項は中心街にも楽しみがある。2013年に開通した浦項運河のクルーズだ。このたび新しく開通した浦項運河は、実は1970年代初頭に浦項製鉄の建設によってふさがれた運河を復元したもの。浦項クルーズ(http://www.pohangcruise.kr/)は午前10時から午後5時まで運航しているが、7月1日から9月30日までは午後8時の夜間運航も一日1回行われる。
浦項港を囲む迎日湾(ヨンイルマン)を回る迎日湾観光遊覧船(http://coastcruise.kr/)もある。週末の昼は浦項旧港を出発して虎尾串まで往復するコース、平日は浦項旧港と迎日湾港を往復する。夜間のコースもあり、18時半に出発する。
浦項運河に行ったらぜひ立ち寄りたいのが竹島(チュット)市場だ。港町・浦項の海の幸はここに集まっているといっていい。サンマを干した「クァメギ」やタラバガニなどが有名だが、夏といえば断然、「ムルフェ」がお勧めだ。水刺身という意味のこの料理は、白身の魚にノリと野菜を加えて冷たいスープで食べる料理。ぷりぷりの刺身とシャーベット状のスープがよく合って、食欲が出るのは間違いなしだ。
Information
慶尚北道の各都市へは市外バスの利用が便利だ。T-way航空が、関空だけでなく、成田、福岡からも大邱国際空港へ就航を開始したため、大邱空港からはより慶尚北道が近くなった。それぞれの地域へのアクセスはサイトを参照。
| 慶州市(http://www.gyeongju.go.kr/open_content/jpn/index.do)
| 浦項市(http://jp.ipohang.org/)
| 清道郡(http://japan.cheongdo.go.kr/)
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