京春線・廃駅めぐりの旅

2017年11月07日

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三角屋根の小さな駅舎を背景にコスモスが揺れ、夕日の中を恋人がデートする、そんなロマンチックな映像を見たことがあるだろう。どれだけ田舎に行ったらこんな風景があるのかと思うかもしれない。しかし、実際に知ってみると意外と近いところにある。ソウルから1時間ほどで到着する江原道の春川に残る4つの古い駅舎を訪ねてみよう。

文/町野山宏記者

 

ソウルの清凉里(チョンニャンニ)と江原道の春川(チュンチョン)を結ぶ京春線(キョンチュンソン)。今でこそ地下鉄の京春線ができてソウル地下鉄の延長となり、高速鉄道ITXも開通して、春川への旅が便利になったが、昔はムグンファ号が走る、いわゆる「汽車」の京春線に揺られる旅だった。その昔の京春線は今は廃線となり、歴史の裏舞台へと消え去る運命だった。しかし、最近のレトロブームに乗って、廃線に残る昔の駅舎はノスタルジーを喚起させる人気の観光スポットとなっている。

まずは新しい京春線の駅からも近い金裕貞(キムユジョン)駅から訪ねてみよう。京春線の金裕貞駅を降り、出口から左へ歩いていくと、歩道が昔の駅のホームに続いている。昔の標識にかわいらしい装飾が加えられており、ホームの両側には線路が残っている。使われなくなった列車もあり、機関車や客車に乗って写真を撮ることもできる。周りではカップルたちが思い思いのポーズで記念撮影に余念がない。線路の上を二人で手をつないで歩くお決まりのポーズも挑戦してみるにはぴったりなスポットだ。

 

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ホームから線路を越えると、枝振りの立派な木の下に小さな三角屋根の駅舎がたたずんでいる。1939年、この駅の開業の時の駅舎だ。当時の駅名は新南(シンナム)駅だったが、2004年、この付近出身の文学者である金裕貞の名をとって金裕貞駅と改称し、地下鉄の駅もその名を継承している。簡素なスレート瓦が乗った傾斜の急な切妻屋根で、出入り口の扉の上に掲げられた駅名と三角屋根が印象的だ。駅舎の中は昔の姿を残しながらも、ユーモラスな台詞を書いたボードやキャラクターなどが、写真で思い出を残すにはちょうどいい小道具となっている。駅舎の前の広場には「私たち、今日結婚しました!」と書かれたオブジェがあり、野外結婚式場を準備中だという。

金裕貞駅の周辺には文学者である金裕貞の生家を中心に金裕貞文学村があり、記念館などで彼の文学世界に触れることができる。また、江村レールパークがあり、金裕貞駅から隣の江村駅まで廃線の線路の上を専用の自転車で走るレールバイクも楽しめる。レールバイクは北漢江沿いの絶景を眺めながら走れ、最後の区間はトロッコ列車の楽しめるため、お勧めだ。

 

廃墟となった駅・江村駅

 

金裕貞駅の隣の江村(カンチョン)駅は、比較的最近につくられた駅舎だ。1988年につくられた駅舎で、廃線となった後はレールバイクの発着場となっていた。今は駅舎は閉鎖されているが、昔のプラットホームの跡が残っており、廃墟好きにはたまらないスポットとなっている。線路のあった部分はアスファルトで埋められて駐車場となっているが、緩やかにカーブするプラットホームに沿ってずらりと並ぶアーチが非現実的な光景をつくりあげる。壁に描かれたグラフィティも、落書きながら秀逸で、思いも寄らない作品に出会った気分だ。また、江村駅は北漢江の流れに面した崖の中腹にあるため、北漢江の眺めも絶景だ。

 

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江村駅の周辺は、昔からMT(大学のサークルなどの短期合宿)のメッカとして有名で、団体で遊びに来ている人も多い。四輪バイクなどのアトラクションも楽しめる。また、廃駅となった江村駅から現在の江村駅までの道沿いには、春川名物であるタッカルビの店が軒を連ねており、名物を味わうにも最適だ。

江村駅から次の白楊里(ペギャンニ)駅、京江(キョンガン)駅までは、この二つの駅が現在の駅から少し離れた位置にあるため、自家用車のない人は江村駅周辺でレンタサイクルを借りて自転車で行くことをお勧めしたい。江村駅から白楊里駅、京江駅までは北漢江に沿ったサイクリングコースが整備されているため、気持ちのよいサイクリングが楽しめる。京江駅に着いてからのレンタサイクルの返却も心配はない。京江駅から近い京春線の窟峰山(クルボンサン)駅から江村駅までは自転車を引いて電車に乗ることもできるため、返却のために元来た道をもう一度戻る必要もない。

 

映画のロケ地となった京江駅

 

白楊里駅は他の駅舎とは違った特徴がある。上りと下りの線路の間に設けられたホームに建っているのだ。1939年に普通駅として開業したものの、2004年に無人の簡易駅に降格するほどの小さな駅だったためだろうか。

他の駅と比べて訪ねる人も少なく、人目を引くような装飾も少ないが、駅員の帽子や服、改札鋏や切符などの昔懐かしいものが展示されている。周辺の駅の歴史に関する展示や写真もあり、じっくりとその雰囲気に浸るのにはいい駅舎だ。外には、今は通じなくなった公衆電話と、3週間後に届くというポストもある。

最後に紹介する京江駅は、京畿道と江原道の境界の駅ということでその名が付けられた。ここから川を渡った向こうは京畿道だ。京江駅は、韓国の純愛映画の代表格ともいえる「手紙」のロケ地となった駅で、「手紙」のポスターがところどころに掲げられている。パク・シニャンとチェ・ジンシルの二人の主人公が出会った場所として映画では登場する。「手紙」のほかにもドラマ「天国の階段」のロケ地となった。

 

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京江駅は金裕貞駅と構造が似ているが、三角の屋根が少し低くなっており、外装もレンガ造りとなっているため、素朴な印象を与える。防水塗料なのだろうか、緑色に塗られた屋根の色とも調和して、秋の風景にすっかりなじんでいた。

京江駅にはもう一つのレールバイクが発着する。金裕貞駅とは違い、ここはレールバイクで往復して帰ってくるコースとなっている。北漢江の流れを眺めながら、レールの上でのサイクリングが楽しめる。

また、京江駅から近いところに樹木園「ジェイドガーデン」がある。ヨーロッパの庭園を思わせる樹木園で、「ラブレイン」、「その冬、風が吹く」など多くのドラマや映画のロケ地となったため、海外からも多くの観光客が訪れる人気の観光地だ。

 

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Information

江原道の各廃駅へのアクセスは、ソウル地下鉄の延長である京春線が便利だ。旧・金裕貞駅は金裕貞駅のすぐ前にあり、旧・江村駅は江村駅から徒歩20分、旧・京江駅は窟峰山駅から徒歩20分で到着する。旧・白楊里駅までは白楊里駅が近いが、徒歩で30ほどかかるため、江村駅からのタクシー利用が便利だ。江村駅の周辺にレンタサイクルの店が多いため(1日5千ウォン)、自転車で巡ることもできる。江村駅から白楊里駅を経由して京江駅までは自転車で約1時間。金裕貞駅と江村駅、京江駅からはレールバイクも利用できる。金裕貞駅-江村駅間は、2人乗り3万ウォン、4人乗り4万ウォン。京江駅発着は2人乗り2万5千ウォン、4人乗り3万千ウォン。ウェブで予約も可能(http://www.railpark.co.kr/)。

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