人気の都市・大邱を「文学」で旅してみませんか?大邱「韓国文学スポット」めぐり
韓国第3の都市「大邱」。ここ数年は日本からの観光客も大幅に伸びている人気の都市です。慶尚北道に位置する広域市で、薬令市があったことから、近年は医療・美容観光にも力を入れており、また数々の韓流ドラマのロケ地が存在するのも人気の秘密です。そんな「大邱」を2012年以来、すでに20数回訪れていますが、今回は出版社クオンが主催する「韓国で旅する韓国」ツアーで訪れてみました。「文学」というキーワードで見た新しい大邱のスポットをご紹介します。
文/佐々木静代(通信員)
まずは大邱が舞台となった小説『庭の深い家(마당 깊은 집)』の著者、金源一(キム・ウォニル)の文学体験館。去年3月にできたそうです。この作品は、朝鮮戦争後の厳しい時代を一人の少年の目を通して描いた長編小説で、戦後、大邱で貧しい暮らしを経験した著者の自伝的小説ともいわれています。その『庭の深い家』のストーリーや登場人物、朝鮮戦争を逃れて大邱に避難してきた人々の生活を紹介するとともに、作家自身の書斎の再現や貴重な原稿などが展示されていました。
この記念館内だけに留まらず、記念館が位置する薬令市通りには、小説の主人公キルナムやお母さんと妹の銅像などがあちこちに点在しています。もう何十回と通った通りだというのに、初めてその存在に気づき、通りを歩きながら小説の世界を感じることができるのです。今までにはない新鮮な感動でした。
大邱の文化が花開いた「香村文化館・大邱文学館」
もう一つご紹介するのは「香村文化館・大邱文学館」。1912年に大邱初の普通銀行「鮮南銀行」として建てられたビルを2014年に展示空間へと改修してオープンしました。1、2階は戦後の韓国や大邱の街並み、歴史を紹介する「香村文化館」、3、4階は大邱文学の歴史にまつわる資料を収集、保存した「大邱文学館」になっています。
香村文化館には約60年前、「香村洞」と呼ばれた街並みが再現されています。朝鮮戦争時にソウルから避難してきた多くの作家、芸術家たちが集まって議論をし、人々が集い杯を酌み交わした一番の繁華街でした。ここで多様な大邱の文化の数々も花開いたのでしょう。この日は大邱大学のヤン・ジノ先生がご一緒だったので、再現された居酒屋にあった張り紙の解説を伺うことができました。これは警告文で、赤い文字は反共とあり、「アカ(共産主義者)と思わしい者を申告せよ」と書かれているそうです。当時はまだまだ朝鮮戦争後の爪痕が市民生活に大きく影響を及ぼしていたことが窺えます。こうした一つ一つを丹念に見ていけるようになると、大邱の街から韓国の近代史の一端を学べるのだと実感しました。
3、4階の「大邱文学館」には、大邱を代表する民族詩人である李相和(イ・サンファ)、具常(グサン)、画家の李仲燮(イ・ジュンソプ)などの数々の貴重な初版本、当時を代表する作品などが展示されています。多くの作家・文化人がやはり朝鮮戦争の戦火を逃れ、大邱の街に移り住み、当時の文化の中心として大邱が栄えたことを窺い知ることができ、それを誇りに思う大邱の人々の矜持を感じることができる貴重な場所です。
チムカルビ・ムンティギなどグルメもいっぱい
ツアーではもちろん観光地も巡りました。 去年 7月、全国の6つの書院ともども世界遺産登録された「道東書院」や韓国全土からも観光客が絶えない「金石光通り」。そして「食」も外せません。参加者のハートを掴んだのは「チムカルビ」。いわずと知れた「大邱十味」の一つですが、私も初めて訪れた地元の人気店は文句なしのおいしさでした。さらにツアー終了後に個人的に出かけた「ムンティギ(牛の刺身)」屋さん、ぜひ次回はみんなに紹介したいお店です。
人気のカフェも多く、人気のお祭りもいっぱいの大邱ですが、時にはちょっと視点を変えた「文学」で旅してみると、新しい「大邱」の発見があるかもしれません。ぜひそんな旅をしてみませんか。
<Information>
大邱までは日本の主要都市と大邱国際空港間に定期便が多数就航中で便利だ。ソウルからは、KTX(ソウル駅出発)またはSRT(スソ駅出発)を利用し、東大邱駅にて下車(所要時間約1時間45分)。大邱文学館の季節企画展と観覧情報、ツアープログラム情報は、公式サイト(http://www.modl.or.kr/)を通じて確認することができる。| https://tour.daegu.go.kr/
金源一の文学体験館、作家の書斎の再現や原稿などが展示されている。
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