仁川開港場Walk ~近代と現代が共存する街を旅する

2015年04月07日

仁川中華街
地下鉄1号線の終点である仁川(インチョン)駅の開港場は異国情緒が溢れる。中華街を象徴する牌楼が異邦人を迎え、その向こう側には日本人が過ごした近代の建物が開花期の姿をそのまま表現している。韓国の中の外国として栄えた仁川のかつての姿を見てみよう。
文/李相直記者

空港で馴染み深い仁川には、「初」という言葉が付いて回る。韓国の関門となったことから海の向こうから来た外国人が最初に訪れる場所が仁川であり、韓国史に残る大きな事件も仁川というこの土地で生まれることが多かった。韓国に初めて鉄道の駅が作られ、鉄道が始まった所も仁川、電気と水道も仁川から始まって韓国全域へと広がった。韓国の国民が愛するサイダーが生まれた所も仁川で、今では懐かしいマッチが最初に作られた所もやはり仁川だった。

仁川がこのように「最初」という多数のタイトルを持っている理由は、韓国最初の開港場という背景が大きく影響している。開港は1883年に成されたが、当時の朝鮮王朝が日本の政治的圧迫に勝つことができず、強制的に開港をしたことから、西欧の文物を受け入れるようになったことが始まりだ。

開港場から新しい歴史が始まったため、仁川を楽しむためにはこの開港場から旅行を始めるのが順序といえる。開港場へのアクセスは簡単だ。ソウルから地下鉄1号線に乗って、終点の仁川駅で降りればよい。

仁川駅を出るとすぐ目の前に見えるのが開港場だが、仁川駅も通り過ぎてしまっては惜しい。外観だけを見れば、仁川を代表する駅としてはかなり規模が小さく感じるかも知れない。ソウルと釜山に続く韓国の第3の都市である仁川を代表する駅だが、その姿は田舎の駅を連想させるほど素朴だ。

しかし、それには理由がある。 仁川駅は韓国で一番初めに作られた鉄道駅なのだ。1899年に仁川駅が建てられ、その翌年にソウルの鷺梁津(ノリャンジン)まで36キロの鉄道が引かれた。現在の仁川駅舎は、朝鮮戦争によって破損した所を1960年に入って補修したもので、1階建ての素朴な駅だがその価値は大きく、馴染み深いソウル駅より価値が何倍もあるといえる。駅前広場の左側にあるイチョウの木の下では「京仁(キョンイン)鉄道の始発地(1899年開通)」と書かれた当時の標石が当時の歴史を伝えており、鉄道マニアには要チェックポイントだ。

仁川駅の前から旅行は始まる。まず初めに旅行者を出迎えるのは仁川チャイナタウンだ。仁川駅から出るとすぐ前に巨大な牌楼が見えるため、道に迷う心配はない。

牌楼は日本の中華街でよく見かけるものとは全く違う。無彩色の石造で威容を誇り、その質感を感じてみようとつい、触ってみたくなる。

石造の牌楼は2008年、既存の牌楼の老朽化によって新しく作られたものだ。仁川市と友好都市関係にある中国の威海市が寄贈したもので、高さ11メートル、幅17メートルの巨大な牌楼を設置するために中国から石造の専門家たちが仁川を訪れ作り上げた。

牌楼を過ぎ、小高い丘から本格的な中華街が始まるが、横浜や神戸の中華街とはその雰囲気が全く違う。完璧に観光地化した日本の中華街とは違い、仁川の中華街は静寂ささえ感じる。人でいっぱいの華やかなデパートを連想させる日本の中華街と比べると、仁川の中華街は静かな中国人の村を連想させる。

通りが静かで、隠れた見どころを探す好奇心も高まる。旅行者を最初に歓迎するのは中華街の中腹から坂の頂上まで続く「三国志通り」だ。中国を代表する文学作品として有名な三国志の160の名場面がタイルに収められており、150メートルの中華街の壁を飾る。使われたタイルの数だけでも4千枚を越える巨大なスケールで、壁画も見て回るのに充分な価値がある。関羽や張飛、呂布などの三国志に登場する武将たちの豪快な剣術や赤壁大戦などの世紀の名戦闘が中国特有の画法で実感できるように描写されており、三国志ファンなら作品の一つひとつを素通りすることはできない。単純な壁画だが、今では仁川中華街のランドマークとなっている。中華街を訪れる観光客の間では記念撮影コースとしても人気が高く、中華街の長い登り坂を登らなければならないが、朝から夜まで中華街を訪れる人たちの足取りは止まることがない。

中華料理店が密集した牌楼の左側の道端にある中国の祠堂である「義善堂」も見所だ。開港後に建てられた義善堂は、中国と当時の朝鮮を行き来する商船の巡航を願って立てられた霊廟であり、韓国で唯一の中国の祠堂として大切に扱われている。

規模は小さいが外観は徹底して中国の祠堂の姿を保っている。赤い瓦のてっぺんには中心の如意宝珠に向かって二匹の龍が飛び、祠堂は5間に分けられ、仏像と龍王に加え、健康と財物、子孫繁盛を守る神々が各々祭られているから、望むことがあればしばし歩みを止め、お祈りしてみるのもよいだろう。

先に訪れた三国志通りの終わりとなる頂上から仁川の代表的な公園である自由公園へ向かう途中にある「済物浦倶楽部」も仁川開港場の歴史に出会える重要な名所だ。「済物浦(チェムルポ)」は仁川の昔の名前だ。「クラブ」を日本の漢字を当てているところをみると、開港当時、肯定的にも否定的にも仁川に吹き荒れた日本の影響が少なからず残されているといえる。

自由公園へ向かう小道の片隅に西欧式の石造の建物が別荘のように佇んでいる。函館や横浜で見たようなレトロな雰囲気があり、海を越えた仁川で見ると、懐かしく、また不思議だ。

済物浦倶楽部は仁川が開港して8年後の1901年に建てられた。ここは開港場の地域内で外国人が自由に居住して生活できる外国人居留地の中に作られた施設だ。

済物浦倶楽部

当時開港場には日本と中国、そしてその他の国家の3ヵ所の租界地が分けられたが、当時朝鮮の治外法権地域だったことから租界地内の発展と調整を目的として、資金を少しずつ集めて済物浦倶楽部をつくることになったというのがガイドの弘南一・仁川市近代文化遺産専門解説士の説明だ。租界国間の利益追求が目的だったが、建物内に社交室や図書室、卓球台が用意されており、月に2回舞踏会も開かれて、社交の場としての役割も担っていた。メンバーも華やかだった。外国人としては初めて高宗皇帝の御医として活動し、朝鮮に初めて洋式病院を作った米国の公使、ホーレス・アーレン(Horace Newton Allen)をはじめ、韓国近代史に多大な影響を与えた人物が集まり、朝鮮が近代化していく上で大きな役割を果たした街角の生き証人的な存在であり、ただのエキゾチックな建物の一つだと通り過ぎると後悔するというのが、弘解説士の説明だ。

内部はかなり異国的で高級感が漂う。厚いオーク木材のバーがあり、近代を象徴する多数の外国の文物が展示されている。展示館の一角には大きなソファーと済物浦倶楽部の歴史を映像で見られる大型モニターもあり、開港場散策で疲れた足を休めることもでき、入場料も無料で気楽に訪れることができる。

済物浦倶楽部

仁川港のパノラマが楽しめるビューポイントからも遠くない。済物浦倶楽部の脇の階段を昇ると丘の頂上には広い自由公園があり、公園の展望台からはたくさんの商船が停泊した仁川の姿を見ることができる。自由公園には「仁川上陸作戦」で韓国の危機を救ったダグラス・マッカーサー元帥の銅像が立っている。

 

日本居留地には通りごとに博物館が

100年前、仁川を訪れた日本人の居留地と遭遇できる点も仁川開港場ならではの楽しみだ。日本風の通りが100年前の姿のまま残っていると聞き、自然と足が日本人居留地に向かう。日本人居留地は中華街と大通りをはさんだ向かい側に位置する。仁川市中区庁の前の道と、それに平行した道沿いにはまばらに当時の建物が姿を現し、身近に感じる建物の外形から、ここが日本人居留地だったことが分かる。

現在は近代建築展示館として運営されている日本第18銀行。その向こうが日本第58銀行。

現在は近代建築展示館として運営されている日本第18銀行。その向こうが日本第58銀行。

 

中区庁の下の交差点にある石造建築物「日本第18銀行」もそのうちの一つだ。1890年に建てられ、長崎に本店を持つ第18銀行の仁川支店として開設されたが、今は仁川開港場の建築物の模型を集めて展示する「仁川開港場近代建築展示館」として使われている。内部では戦争などで消失した仁川開港場当時の日本人が建てた多くの建物が、完成度の高い模型で再現されており、華やかなりし頃の日本人居留地の姿を垣間見ることができる。

1882年に建てられた「日本第1銀行」の建物もやはり、優れた石造の建築美を誇る。天井のドームと神殿を連想させる外観から、日本人居留地内で最も美しい建物として選ばれる。内部は立派な博物館で観光客を迎える。仁川開港博物館という看板がかけられ、開港当時の珍しい品と文化財が多数展示されており、100年前の近代時間旅行が楽しめる。

銀行の代表的な建物だけでなく、100年前から残されている開港当時の建物がところどころにあり、歩くだけで思いがけない宝物を発見できるだろう。

120年前の町屋とあずきメニューが絶品!

カフェ「Pot R」

カフェPot Rのパッピンス(手前)とパッチュク(奥)

カフェPot Rのパッピンス(手前)とパッチュク(奥)

仁川散歩で歩きつかれたらぜひ寄りたいカフェがある。「Pot R(팟알)」と名づけられたカフェで中区庁から仁川駅の方向へ少し歩いたところにあるこの店は、120年前の日本式の町屋を改修したものだ。木造3階建てで、きれいに補修されているが、ところどころに当時の材木や壁をそのまま残した部分もある文化財だ。

入口を入るとすぐに絵葉書が陳列されているが、開港当時の写真や版画など、思わず手にとってしまうかわいさだ。1階のテーブル席も木造住宅の様子をよく再現してあり、ゆったりとくつろげる。当時の電話や版画なども展示されていて目を引く。

入口から奥へと続いく廊下があるが、壁には仁川の港の100年前の姿を収めたパノラマ写真が展示されている。その廊下を過ぎると裏庭があり、そこから2階、3階へと上がることができる。2階には畳が敷かれ、改修前の写真が展示されている。その奥にも畳の部屋があり、予約するとここでお茶を飲むこともできる。3階には当時の壁が残されているため、必見だ。

この店の建物もすばらしいが、メニューもおいしいことで有名だ。その中でもおすすめは、店の名前でもある「あずき」。夏はパッピンス(あずきの乗ったかき氷)、冬はパッチュク(あずき粥)で楽しめる。もちろん、季節に関係なく食べられるので、欲張りな人は両方頼んでもいいかもしれない。

普通、韓国ではパッピンスはかき混ぜて食べるが、ここでは店員が「混ぜないで食べてください」という。おいしいつぶあんと、底に沈んだ練乳、そして氷にはさまれたきなこの味がそれぞれ生きていて、店員の言葉に納得。

パッチュクは普通、砂糖が入っておらず、食べる人のお好みで塩や砂糖を振って食べるが、ここではしっかりと甘みがついて、おしることいった方がいいかもしれない。それでもとろみが強いのが韓国風。そして上にかかったシナモンがよく調和していて変わった風味を出している。

どちらのメニューもあずき自体がおいしいため、素材の味を損なわないように甘さを控えてあるのがうれしい。この二つのメニューは似たようで違う二つの文化をよく表したスイーツといえるかもしれないが、ここの「あずきメニュー」は両方の長所を生かした絶妙な一品だといえる。

外国の文化に早くから接してうまく融合した仁川ならではの味、ぜひお試しあれ。

| www.pot-r.com

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