寄稿| 小説「少年が来る」の舞台、光州を訪ねて
小説「少年が来る」の舞台、光州を訪ねて
― 5.18民主化抗争を想う
文/佐々木静代
韓流ドラマや韓国映画のロケ地巡りの旅があるように、韓国文学の舞台や作者の故郷を訪ねる旅があってもいいのではないだろうか? 「文学で旅する韓国」ツアーはそんな発想から生まれた。このツアーは、日本で韓国文学の翻訳出版を手掛ける出版社クオンから誕生した。
2016年に始まったこのツアーは、1回目の昨年、大河小説「土地」の作者である朴景利(パク・キョンニ)の故郷・統営(トンヨン)を訪ね、「土地」がドラマ化された際のロケ地・河東(ハドン)まで足を伸ばした。そして2017年は今、ブッカー国際賞の受賞によって韓国で最も注目を集める作家・韓江(ハン・ガン)の「少年が来る」の舞台となった光州へ向かった。
小説で描かれているのは、5・18光州民主化抗争である。だが、それを告発するのではなく、あの時、あの場所で暮らしていた少年たちや女性たちの思いが綴られている。
今回の旅では、現在「5・18国政課題実行推進委員長」でもあるアン・チョンチョル先生と、全南大学や高校で歴史の教鞭を執っている妹のアン・チョンエ先生が抗争の現場を案内、解説してくださった。当時、抗争の発端となった全南大学の4年生と2年生だったお二人は、まさに抗争そのものを体験された方でもある。韓国の歴史に一石を投じた歴史的事件にもかかわらず、明らかにされていないことも多く、明らかにすべきことも多い光州民主化抗争。その実際にあったできごとと、後世に語り継ぐ意義について、語ってくださった。
全南大学正門前に集合し、当時のご自身たちの体験も交えながら、解説が始まる。紅葉で美しく彩られているこの場所で、大勢の学生たちと国から派兵された軍が対峙していたという。アン・チョンエ先生は、「あの日(5月18日)は中間試験シーズンで図書館に勉強しに行っていました。実はそんな学生がほとんどでした。しかし、軍の突入といった事件の勃発に、民主化を実現するために『命を懸けて戦おう、戦わなくていけない』と思い、民主化運動をリードしている人々と一緒に行動することにしたのです」と語る。抗争が起きる寸前まで普通に暮らしていたが、軍の突入という事態に、「これは何か間違っている、これは見過ごすことはできない」と、立ち上がった人々が大勢いたことに驚きを隠せなかった。
続いて向かったのは、尚武館(サンムグァン)と全南道庁。「少年が来る」の第1篇に登場する少年ドンホが、運ばれてくる遺体にその特徴を記す仕事を手伝う場所だ。中に入ると、小説で読んだ時のイメージよりも小ぢんまりとしていることに皆、一様に驚いた。天井以外は張り替えられているが、その場所に何百人もの方々の遺体が並べられ、その横で涙する遺族の姿があったことを思うと足がすくんでしまう。
そして郊外にある「国立5・18民主墓地」では1980年5月に死去の墓石を見ると、改めてこの方たちがあの闘争で命を落とした事実を突きられた気持ちになる。この時、命を落としたり、連行されていった学生や市民たちの多くは、普通に暮らしていた人たちだったが、軍事政権の暴挙の前に自ずと「民主化」を掲げて命を懸けて闘うことになったのだ。
1980年といえば、私もちょうど18歳。大学に入学し、ウキウキしていた頃だ。その同じ時期に同じ世代の若者が直面していたことを簡単には想像できないが、そんなできごとをこうして一冊の本を通して知ることができたことは、本当に貴重なことだったと改めて胸に刻むこととなった。
もちろん光州がこの歴史的事件だけの街ではない。今では「光州ビエンナーレ」を開催するなど、芸術・文化の街としても人気を集めている。国立光州博物館や光州市立美術館、光州民俗博物館がずらりと揃うミュージアムエリアも見どころだ。
韓国の歴史の中で大きな役割を果たすこととなった光州だが、その歴史的な意義をしっかりと伝えながらも、これから未来に向かって新しく大きく生まれ変わっていく魅力ある街である。韓国を愛する人にはぜひ一度は訪れていただきたい場所の一つだ。
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