建築で巡る近代史~忠清北道・清州市

2019年02月25日

IMG_2632 忠清北道の中心・清州(チョンジュ)。ソウルから高速バスに乗れば1時間半で到着する。韓国人にとっては歴代の大統領の別荘地として使われた青南台(チョンナムデ)がよく知られ、日本人にはドラマのロケ地となった壁画村「寿岩(スアム)ゴル」などが有名だが、レトロ建築を巡る街歩き旅行も、この地域の近代史を垣間見ることができる興味深いテーマだ。

文/町野山宏記者
忠清北道と忠清南道に分かれている忠清道の中心は、その名が示すように忠州(チュンジュ)と清州だった。そのうちでもソウルと釜山の結ぶ道にあった忠州がより栄えていたが、鉄道の敷設によってその勢いは清州に移ることになり、今では忠清北道の名実共なる中心は清州となった。

そのようにして、今の道庁にあたる監察部が忠州から清州に移転したのが1908年のこと。それから現在まで清州が道庁所在地となっている。1928年に木造の庁舎を建て、1937年に建てられた道庁の建物が今も現役で使用されている。

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立派な正門を通ると正面に堂々とした姿を見せる。水平と垂直で構成されたモダニズム的な造形が建築当時の流行を感じさせる、同時期に大田市に建てられた忠清南道庁と似ているように感じるのは、シンメトリーな構造だけでなく、縦に溝の入ったスクラッチタイルを使っているせいもあるだろう。

道庁の東にそびえる山の中腹には、道庁とほぼ同じ時期に建てられた忠北道知事の官舎がある。道庁から清州郷校に向かう緩やかな坂道の左側に、官舎に上る道が伸びている。清州の市内を見渡せる高台に、きれいに整えられた庭があり、庭に向かって官舎が建っている。木造のレトロな洋館で、最近まで道知事が暮らしていたが、現在は地域の歴史を物語る展示館として一般公開されている。

中に入ると、天井を取り払ってあるため、屋根の構造が目に入ってくる。昭和の年号が入った上棟文も見える。清州出身の文学者に関する展示と、この官舎の歴史に関する解説を見ながら進んでいくと、見慣れた日本家屋の縁側に出る。すなわち、前面は西洋式、後ろは日本式になっているというわけだ。縁側に面した障子を開けると畳部屋があり、本を読みながらくつろげるようになっている。道知事が使っている時はオンドルが入った韓国式の床だったが、建てられた当時は畳部屋だったため復元したのだという。それでも障子は韓国式となっているのも興味深い。縁側の外はきれいな庭が広がっており、秋に訪れたときは紅葉が美しかった。裏庭には官舎の新館として使われていた建物があり、そちらは小さなギャラリーとして地元の作家たちの作品などを展示している。

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山の中腹に建てられた道知事の官舎からは、隣の丘の上に建つ韓屋スタイルの聖堂もよく見える。カトリックやプロテスタントの教会が天を突くような塔を持つ西洋式の建物を建てている反面、聖公会は韓屋スタイルの聖堂を建てていることが多い。1935年に建てられた聖公会清州聖堂も、地元の人に違和感を与えないようにと韓屋スタイルとなっている。今は屋根の上に十字架が掲げられているが、おそらく当時は壁にモザイクのようにつくられた十字架だけだったのではないだろうか。

聖堂の中には静かな時間が流れる。長く使われた木の柱や椅子、礼拝儀式に関する家具などが昔の情緒を今に伝え、訪れる人を敬虔な気持ちにさせる。祈らなくとも瞑想するにはとてもよい場所だ。

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聖公会聖堂と道知事官舎の周りは静かな住宅街だが、その中でも目立つのが赤い切妻屋根の家。外壁が水色に塗られた木造建築で、元は朝鮮金融組合連合会の忠北支部長の社宅として1924年に建てられたもの。現在はマリンバの演奏者を輩出する芸能院として使われている。

忠清南道庁から西にしばらく行くと、清州工業高校と舟城(チュソン)初等学校(小学校)が並んでいるが、舟城初等学校には1923年に建てられた講堂が残されている。屋根や窓の形が変わっていて、設計にそうとう神経を使ったことがうかがえる。現在は教育博物館として、昔学校で使われた教科書などが展示されている。日本の学校と比較してみても興味深いだろう。

教育博物館の近くには昔の倉庫や家屋を改造したカフェなどができており、「インスタ映え」するところとして人気が出始めている。「ポール&ジュビ」というカフェは、もとは氷の倉庫として使われていた建物で、木造の屋根が雰囲気を引き立てる。インテリアはもちろん、コーヒーにもこだわりを持っているため、街歩きの小休憩にはもってこいの場所だ。

 

韓洋折衷が美しい清州塔洞洋館

清州の中心を南北に走る上党路沿いにあるロッテヤングプラザの裏はレストランやファッションブランドの店が立ち並ぶ繁華街だが、この街中に国宝があるといえば驚くだろうか。ショッピングに夢中になっていたら通り過ぎてしまうかも知れないが、広場の一角に黒々とした鉄の竿が立っている。高麗時代の962年に創建された龍頭寺(ヨンドゥサ)にあった竿で、寺の行事の際に使う「幢」と呼ばれる旗をかけていたものだ。寺自体は度重なる戦乱によってなくなってしまったが、鉄幢竿だけが残った。他の寺では竿を支える石の支柱のみが残っていることが多いが、ここは竿まで残っている貴重なものだ。

龍頭寺址鉄幢竿が立てられたエピソードも興味深い。もともと清州は頻繁に起こる洪水に悩まされている地域だったが、ある占い師の「街の中央に竿を立てれば街自体が帆を立てた舟の形になって、洪水から守られるであろう」という言葉に従ってこの鉄幢竿を立てた。実際に竿を立てた後は洪水が少なくなったという。清州に「舟城」など舟に関する別名がつけられているのはそのためだと伝えられている。

近代の清州で道庁を中心とした地域は日本人が多く住んでいた地域だったが、少し南に行った「塔洞(タプトン)」周辺はキリスト教の宣教師たちが精力的に活動を行なっていた地域だった。その名残が一信女子高の敷地内に残る宣教師住宅だ。1900年代の初めに清州で宣教活動を開始したアメリカの宣教師たちは、自分たちの生活の場所として、あるいは現地の住民に医療や教育を施すための病院や学校としてレンガ造りの住宅を建てた。レンガも輸入するしかなかった時代に西洋式の住宅を建てるのは困難なことで、アメリカの信徒たちの寄付があってこそ可能なことだった。そのため、6棟の住宅一つひとつには「第○号洋館」という呼び名と共に、寄付した人やここで献身的に活動した牧師の名前が別名として使われている。

宣教師によって出発した一信女子高の敷地内には3~6号の4棟の洋館があり、学校の敷地のすぐ隣に聖書学院として使われている第2号洋館があるが、第1号洋館は学校設立の資金調達のために個人に売却され、今も個人の住宅として使われている。6棟の住宅はすべてレンガ造りだが、一つひとつで構造や様式がまったく違い、それを見るだけでも楽しい。屋根も、あるものは韓国式の瓦を使った折衷様式となっている。また、聖書学校として使われている第2号洋館は、儒教の影響を受けて男女の席をカーテンで仕切っていた跡が見られるという。建物自体の美しさもさることながら、周りの木々や芝生の植えられた広い庭と調和して、しばらくそこにたたずんでいたくなるほどの風景をかもし出す。

宣教師住宅に関連する歴史を紐解いていくと、宣教師たちの苦労が偲ばれるエピソードが多い。きれいな水を得ることさえ難しい中で医療奉仕を行いながら、自分も伝染病に侵されて命を落とした宣教師も少なくない。言葉も思うように通じず、文化もまったく違う異国の地で、6棟の西洋式の住宅は宣教師たちの安息の空間だったのだろう。

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他にはない味清州の極上グルメ

旅の大きな楽しみの一つがグルメだ。最後に清州の代表的な味を紹介しよう。清州中央公園から近い西門市場にサムギョプサル通りがあり、さまざまなメディアに紹介されている。特に有名なのが「シオヤキ」と呼ばれる醤油サムギョプサル。普通のサムギョプサルとは違い、醤油ベースのたれに漬けてから焼くのが特徴だ。醤油で下味をつけて肉の雑味が取れる。清州はサムギョプサルの発祥の地ともいわれ、店によっては新鮮なおいしい肉が食べられる。

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またサムギョプサル通りの近くにはカワニナのスープの店がある。韓国では「オルゲンイ」と呼ばれる小さな貝とニラがたっぷり入ったスープが深い味わい。二日酔いにも効くため、朝ごはんには最高の一品だろう。

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ソウルから清州市までは高速バスを利用するのが便利だ。ここで紹介した場所までは北清州バスターミナルがより近い。ソウルのセントラルシティターミナルから「北清州」行きのバスで約1時間40分。バスターミナルから各名所へは多数のバスが出ているが、タクシーを利用してもすべて15分以内に到着する。

地図をクリックすると拡大します。

タバコ工場が美術館に~国立現代美術館・清州館が開館

2018年12月27日、清州に新しい名所が登場した。国立現代美術館・清州館だ。今まで果川館、ソウル館、徳寿宮館があったが、今回、初めての地方分館が誕生したわけだ。

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清州館の最大の特徴は、展示の機能よりは収蔵庫としての機能を重視している点で、正式名称も「国立美術品収蔵保存センター」となっている。といっても収蔵するだけではなく、「開放型収蔵庫」として、美術品を最適な環境で保存しながら観覧客が観覧できるようになっている。一般の美術館ではキュレーターが企画し、台の上に置かれて説明が加えられるなどの形で展示されるが、「開放型収蔵庫」ではアルミニウムの収蔵用プレートに乗った収蔵さえた状態そのままで見せてくれる。

「見える収蔵庫」という形もあり、温度や湿度により敏感な絵画作品などの収蔵庫を、観覧客がガラスの窓を通して見ることができるというもの。そのほか、作品の研究や復元の作業を行なっている現場を見ることができるスペースもつくられている。もちろん、従来のような展示室もあり、企画展示が行われる。

清州館、実は1946年に建てられた国内最大のタバコ工場の建物をリノベーションしたもの。2004年にタバコ工場としての役目を終えてからは工芸ビエンナーレの会場として使われていたが、このたび美術館として生まれ変わった。工芸ビエンナーレも美術館の周辺の敷地で続けられていく予定だ。

すでに企画展は行なわれているが、周辺の環境などが整備されるのは2019年の春くらいになるという。韓国に今までなかった収蔵型の美術館、これからどのように活用されていくのかが楽しみだ。

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