扶余・薯童蓮祭り体験記

2018年07月20日

千五百年の歴史、一千万輪の蓮の香り

扶余・薯童蓮祭り体験記

百済の最後の都であり、公州・益山と共に「百済文化遺跡地区」として世界遺産に登録された遺跡を有する街、扶余。世界遺産に登録された遺跡も興味深いが、それに劣らない魅力を持つのが宮南池。その宮南池で7月6日から15日まで「扶余・薯童蓮祭り」が開かれ、宮南池を訪ね、蓮の香りに浸ってみた。
文/町野山宏記者

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朝から雲行きが怪しかった祭りの初日。扶余にバスが到着する前から雨が窓を叩き始めた。それでもバスはほぼ満員で、日本語もちらほら聞こえる。やはり祭りの日は違う。

扶余バスターミナルに到着すると、日本人の一行は定林寺址へ。記者は宮南池へ向かった。扶余郡庁の前を通り、郷土料理通りを通ると、祭りの屋台のコーナーが設けられているが、平日の雨の日とあって人はまばらだ。会場はどうだろうかと心配になった。

しかしそれは杞憂に終わった。宮南池は傘をさした人たちが、雨に濡れた蓮の花を愛でている。彼らの顔に雨に対する憂鬱さは見られず、かえってこの天気を楽しんでいるかのようだった。

蓮は確かに美しかった。最初に迎えてくれたのは、大輪の紅蓮。艶やかなピンク色で、色の薄めのものから濃いものまで、その色も花によって多様だ。また、まだつぼみのものから大きく開いているもの、半開きのものと、その表情もさまざまだ。1千万輪に及ぶ花がこの宮南池に咲いているといわれているが、全世界で同じ顔をした人が一人もいないように、その1千万輪の花の一つひとつがすべて違う表情を持っていると感じさせれる。そうして見ていくと、10万坪に及ぶ広大な会場もくまなく歩きたくなってくる。

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紅蓮の向かいには、小ぶりの花が咲く睡蓮が咲いている。紅蓮のような大きな華やかさはないが、色が鮮やかで花の一つひとつが強い印象を持っている。濃いピンクから鮮やかな紫、薄黄色など、色もより多彩だ。中には外来種の睡蓮もあり、植物図鑑で見たような巨大な葉を持った蓮も見られた。外来種といえば、2千年前のものと推定される土の中から発掘された種から発芽した「大賀ハス」をはじめ、ハスを国花とする7ヵ国の蓮もここ宮南池で花を咲かせている。蓮のほかにも水の上に咲くウォーターポピー(ミズヒナゲシ)などもあり、薄黄色のかわいらしい花が小さな池全体を覆っている。

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このようにさまざまな美しい花が愛嬌を振りまいているため、観覧客たちは足をとどめずにはいられない。スマホを取り出して写真を撮り、花を背景に自撮りし、お互いに写真を撮り合う。立派なズームレンズを構えた人たちがあちらこちらでシャッターを切っている。傘を差しながらの不便な撮影会だが、蓮の美しさの前には小さなことのようだ。

 

薯童と善花の伝説が残る

宮南池はさまざまな種類の蓮が植えられた数多くの池が集まっている形だが、その中央には大きな池があり、池の真ん中には韓国伝統様式の東屋が建てられている。東屋までは木の橋がかけられており、渡れるようになっている。池の周りから見てもフォトジェニックだが、東屋に靴を脱いで上がってもとても気持ちがいい。「抱龍亭(ポリョンジョン)」と名づけられたこの東屋に関するいわれが額に書かれており、興味深い。

IMG_0886s宮南池は、歴史書「三国史記」に「穿池於宮南」、すなわち「宮の南に池を掘った」と記されていることから、西暦634年、百済第30代武王(ムワン)の代に造成されたものとされているが、抱龍亭の名はその武王の出生に関する伝説から来ている。武王の母親が一人で宮南池の近くに住んでいた時、龍と交わって薯童(ソドン/後の武王)を生んだ(「交龍而生小名薯童」)という三国遺志の記録によるもの。今から1500年ほど前の歴史がここに残っているのだ。

武王は百済を多く発展させた王として知られているが、王妃である善花(ソンファ)姫をめとるようになった逸話もよく知られている。後に武王となる薯童は、百済の敵国であった新羅の眞平(チンピョン)王の三女である善花姫が絶世の美女であるといううわさを聞いて、善花姫と結婚しようと決心する。薯童は没落した王族で山芋を掘る身分だったが、新羅の子供たちに山芋を分けてあげながら、ある歌を子供たちに教えて歌わせる。「薯童謡」というその歌は、「善花姫は密かに情を交わし、夜な夜な薯童の部屋を訪れる」というものだった。国中に広まったその噂によって怒った眞平王に追い出された善花姫は、薯童と結婚するようになったという話だ。抱龍亭にも薯童謡の漢文の詩を書いた額がかかっていた。

薯童蓮祭りは、蓮の花と風景を愛でるだけの祭りではないのはもちろんだ。池の間を巡る道沿いにはテントが並び、蓮に関するさまざまな体験ができる。蓮の花を利用した香水作りや、蓮の種を使ったアクセサリー作り、蓮を象った装飾品作りなど、子供から大人まで楽しめる体験が満載だ。

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宮南池の巡り方もさまざまだ。中央の大きな池の周りを、ロバが引く馬車に乗って一周することもできる。乗っても楽しいし、子供たちが載って喜ぶのを傍から見ているだけでも微笑ましい。池を巡る道も、池の間の遊歩道だけでなく、蓮池を横切って通る道もところどころにつくられており、ちょっと変わった角度からの写真も撮れる。ヘチマが実るつたのトンネルや、ハートを象ったイルミネーションをくぐる「愛の誓い」ゾーンなどもある。

何よりお勧めしたいのが、「蓮池探検」と銘打ったアトラクション。蓮池につくられた水路を、カヌーを駆りながら巡る。「探検」といいながらも、池で舟遊びをした百済の王族の気分が味わえる。

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夜も輝く宮南池

今年で16回目を迎えた「薯童蓮祭り」、今年のテーマは「世界を抱いた宮南池、夜も輝く」。昼間にも美しい宮南池が、夜になったらどう飾られるのか期待が高まる。夜の帳が下り始めた夜7時、宮南池のあちらこちらで灯りが灯った。「薯童の道」と名づけられた蔓草のトンネルのイルミネーションが輝き、蓮の花やハートを象ったオブジェも光を放つ。蓮の花を国花とする7ヵ国を代表するオブジェも、昼間はただの張りぼてだったが、光を放つと幻想的な風景を演出した。

そして、なんといっても中央の抱龍亭を囲む大きな池が圧巻だった。抱龍亭を蓮の花びらを象ったオブジェが取り囲み、夜の闇の中で紅蓮のように美しく光っている。その花びらは上下にゆっくりと動きながら、蓮の花が風に揺れる様を表現しているようだ。夜8時からは、観覧客が自分の願い事を込めた灯篭を池に浮かべるプログラムが始まった。数多くの小さな灯篭が浮かべられ、さらに華やかな光景が演出された。

抱龍亭で幻想的な光景が演出されている時、宮南池の脇の特設ステージでは開幕式が行なわれていた。チアリーディングチームの式前公演に続き、扶余郡忠南国楽団による演奏、開幕式の後は「海外蓮の国公演」と題してインドとモンゴルの舞台が華やかな公演を披露した。開幕式の日だけでなく、15日の閉幕まで毎夜、華やかな公演が準備されているようだ。

昼も、夜も一日中楽しめる宮南池の薯童蓮祭り、毎年7月に行なわれるため、来年の祭りを期待しよう。

 

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Information

扶余郡まではソウル南部ターミナルから10~30分間隔で市外バスが運行中。2時間所要。宮南池まではタクシーが便利。

扶余郡観光情報サイト
http://tour.buyeo.go.kr

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