韓国で14番目の世界遺産に「韓国の書院」
2019年7月6日、韓国の9ヵ所の書院がユネスコ世界遺産に登録された。韓国で14番目となる世界遺産だ。韓国の書院は、朝鮮時代の私設の教育機関。世界遺産委員会は今回の登録の背景について「今日まで韓国で教育と社会的慣習として持続してきた性理学に関連した文化的伝統の証拠」であり、「性理学の概念が要件に沿って変化する歴史的過程を見せてくれるという点で卓越した保存的価値が認められた」と説明した。今回登録されたのは、紹修書院(慶尚北道栄州市)、玉山書院(慶尚北道慶州市)、陶山書院(慶尚北道安東市)、屏山書院(安東市)、道東書院(大邱市達城郡)、藍渓書院(慶尚南道咸陽郡)、武城書院(全羅北道井邑市)、筆巖書院(全羅南道長城郡)、遯巖書院(忠清南道論山市)の9ヵ所。それぞれが独特の特徴を持つ書院を紹介しよう。
文/町野山宏記者
紹修書院
1543年、豊基郡守であった周世鵬(チュ・セブン)によって建てられた韓国最初の書院。中国から性理学を伝えた安珦(アン・ヒャン)を祀るための祠堂があり、「白雲洞(ペグンドン)書院」という名で設立された。1548年、豊基郡守となった退渓李滉の要請によって明宗による扁額を賜る最初の賜額書院となり、名称も「紹修書院」となった。
書院の脇を流れる竹渓(チュッケ)には、「敬字岩(キョンジャバウィ)」があり、ここに刻まれた「敬」の字は周世鵬が書いたもので、性理学を学ぶ者が持つべき心の姿勢を正すために書かれた。李滉はここに松や竹を植えて「翠寒臺(チィハンデ)と名づけ、風流を楽しんだ。
豊基駅前から27番バスに乗り、約30分。「紹修書院」下車。
Tel: 054-639-5852
玉山書院
世界遺産に指定されている慶州市の良洞マウル出身で、朝鮮五賢の一人である李彦迪(イ・オンチョク)を祀って1572年に建てられた。翌年、李彦迪の位牌を郷賢祠(ヒャンヒョンサ)から移し、1574年には宣祖から「玉山」という扁額を賜る賜額書院に昇格した。最初の扁額は朝鮮時代の名宰相である李山海(イ・サンヘ)によって書かれたものだったが、現在の扁額は朝鮮時代後期の書道家・金正喜(キム・ジョンヒ)によるもの。李山海による扁額も展示されている。
初期に建てられた書院であるにもかかわらず、枠にはめたように整然とした形式になっており、厳しかったといわれる院則のように建築物にも節制と緊張感が感じられる。
慶州駅から203番バスに乗り、約90分。「玉山2里(オクサンイリ)」下車。徒歩5分。
Tel: 054-762-6567
陶山書院
朝鮮中期の儒学者である退渓李滉が弟子の教育のために1560年に建てた「陶山書堂」と、退渓の死後に建てられた、退渓の位牌を祀る祠堂である「陶山書院」に分かれる。1560年には、退渓李滉が暮らした「陶山書堂」のほか、儒学生の宿舎である隴雲精舍と付属施設の下庫直舍が建てられた。1575年、宣祖の命により賜額書院となった。川と平野を眺める高台にあり、周辺の風景と共に多くの絵画や詩に描かれた。
質素な暮らしを強調した退渓が暮らした「陶山書堂」は台所とオンドル部屋、板の間が一つずつという簡素な構造だ。板の間の前には池をつくり、その脇には梅、竹、菊を植えて自然と一つになる生活を示した。
安東駅前の「教保生命前(キョボセンミョンアプ)」停留所から67番バスを利用し、「陶山書院入口(トサンソウォンイック」下車。1日4本ずつ運行。Tel: 054-856-1073
| www.dosanseowon.com
屛山書院
安東の豊山(プンサン)県にあった豊岳書堂(プンガクソダン)を、当時の領議政であった柳成龍(ユ・ソンリョン)が場所を移して屛山書堂となった。柳成龍の没後に祠堂が建てられ、屛山書院となった。書院の前には洛東江をはさんで屏風を広げたような屏山という山がそびえており、これが書院の名前の由来となっている。この絶景を眺めるのに最適な、屏山書院最大の見所が、「晩対楼(マンデル)」だ。儒学生たちの行事などで使われた高床式の楼で、楼に上がって眺めると、洛東江とその手前に広がる白い砂浜、そして屏山が一枚の屏風のように美しい。安東河回マウルから近いため、河回マウルに行ったら屏山書院まで足を伸ばしてみたい。
安東市外バスターミナル向かいから46番バス(1日2本)を利用。所要時間は60分。
Tel: 054-853-2172
道東書院
洛東江のほとりに建てられた書院で、朝鮮五賢の一人である寒喧堂(ハヌォンダン)金宏弼(キムクェンピル)を祀るために建てられた。金宏弼は李滉に「東方道学之宗」と称され、道東書院の名も「孔子の道が東へ来た」という意味でつけられた。文禄・慶長の役で焼失したが再建され、道東書院の名で扁額が与えられた賜額書院。
洛東江を見下ろす水月楼(スウォルル)と講堂などの主要な建物が一直線に並ぶ、韓国の書院の中で最も典型的な配置形式を持つ。講堂や祠堂の建築技巧はすばらしく、書院を囲む塀も優れているとして、宝物第350号に指定されている。書院の前にそびえる樹齢400年のイチョウの木も有名。
大邱駅から600番バスに乗り、「達成2次公団(タルソンイチャコンダン)」で達成4番バスに乗り換え。「道東書院」下車。所要時間は約3時間。
Tel: 053-617-7620
藍渓書院
1552年、朝鮮時代の「五賢」の一人である儒学者・一蠹(イルドゥ)・鄭汝昌(チョン・ヨチャン)の学問と徳を追慕するために創建された。藍渓川の向こうには鄭汝昌の生まれた介坪(ケピョン)村が見える。1566年には藍渓という名で扁額を賜り、賜額寺院となった。
紹修書院に続いて2番目に建てられた書院で、祭祀の空間を奥に、講学の空間を手前に配置するという書院建築の典型を見せている。講堂の前の養正齋(ヤンジョンジェ)と輔仁齋(ポインジェ)の前には蓮池が一つずつある。蓮池を望む部屋はそれぞれ「愛蓮軒(エリョンホン)」、「咏梅軒(ヨンメホン)」と名づけられ、鄭汝昌は蓮と梅を愛したと伝えられている。
咸陽市外バスターミナルからタクシーで約15分。
武城書院
新羅の儒学者である孤雲・崔致遠を祀った生祠堂である「泰山祠(テサンサ)」が元になっており、1483年に現在の位置に移った後、1696年に「武城(ムソン)」の名で賜額書院となった。他の書院が自然景観の優れたところにあるのとは違い、武城書院は村の中心部にあり、身分や階級を問わず誰にでも学問に接する機会を与えていた。地域文化を先導する役割も果たし、1907年の第2次日韓協定に反対する義兵の拠点ともなった。
武城書院は閉鎖的でなく簡潔な建物で構成されており、建物の高さもほとんど同じであることから、民に対する配慮が感じられる。講堂の正面5間のうち、中央の3間は壁がなく、前と後ろが筒抜けになっているため、その後ろにある内三門の太極模様がよく見える。
ソウル駅からKTXで湖南線井邑駅で下車。151-2、151-5番バスに乗って「ウォンチョン」停留所で下車。徒歩約7分。
筆巖書院
性理学者である河西(ハソ)・金麟厚(キム・イヌ)を祀るために1590年に建てられた。1597年の慶長の役で焼失したが、1642年に再建され、1662年に「筆巖」の名で賜額書院となった。興宣大院君の書院撤廃令の時にも全羅道地域で唯一残された書院だ。宝物に指定されている古文書や、仁宗が金麟厚に下賜した墨竹図、河西遺墨木板など約60件の文化財が保管されている。
構造としては、手前に教育のための空間、奥に祭祀の空間を置き、韓国の書院様式の典型をよく見せてくれる。
龍山駅から列車で長城駅、またはセントラルシティターミナルからバスで長城バスターミナルまで行き、タクシーで約10分。
遯巖書院
朝鮮礼学派の主流を形成した学者である沙溪(サゲ)・金長生(キム・ジャンセン)の学問や徳行をたたえるために1660年に創建された。金集、宋浚吉、宋時烈などが祀られ、地方教育の一翼を担当する郷土書院。
儒学生たちを教育する講堂である凝道堂は韓国の書院の講堂の中でも最大のものであり、当時の建築様式に忠実に従った建築として評価されている。
論山駅から301、303、304番など市内バスで「イムニ・遯巖書院」停留所下車。徒歩約10分。
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