公山城、宋山里古墳群、公州市の世界遺産を巡る
公山城、宋山里古墳群
公州市の世界遺産を巡る
今年の7月にユネスコ世界遺産に登録された百済歴史遺跡地区。1500年前の王国だった「百済」の遺跡の価値が認められながら、世界の人々がこの地域に注目し始めた。そんな百済の足跡を巡る過去へのタイムトリップが楽しめるだけでなく、韓国情緒が感じられる韓屋村や、千年古刹で癒され、地域特産品で舌鼓を打つ旅行先「公州(コンジュ)市」へと向かってみた。
文/大成直子
まずは公州を巡る前に、少し百済の歴史について知ってみることにしよう。三国時代と呼ばれた4世紀ごろ、百済は半島の南西部である漢城(ハンソン=現在のソウル周辺)に都を置き、盛大な勢力を誇っていた。しかし、5世紀半ば頃には百済と高句麗の政治的関係が急速に悪化しながら当時三国の中で、政治・軍事的に最も勢力のあった高句麗が朝鮮半島全体を統一しようと南進政策を推進した。これを阻止するために、百済は数回の激しい抗戦を行ったが、その戦いに敗れて漢江流域の支配権を高句麗に奪われてしまう。この過程で、百済22代王の文周王(ムンジュ王、在位475~477)が漢城から熊津(ウンジン)地域へと急いで遷都を移したが、この熊津が、現在の公州市に該当する。その後538年に遷都を扶餘へと移すまで、熊津時代は63年と短かったものの、百済を代表する第25代王・武寧(ムリョン)王の墳墓がある宋山里(ソンサンニ)古墳群や、その当時に築かれた城郭である公山城(コンサンソン)など、現在もその当時の姿が残っていることから、その価値が百済歴史地区群としてユネスコ世界文化遺産に登録された。
まずは百済の都を外的から守るための城郭だった公山城へと向かおう。建てられた当時は土塁として積まれたものが、朝鮮時代になってから石積みの城郭として整備されたものだ。登り道は階段式になっていて、普段の運動不足のため上るのに少し息が切れるが、その坂道以降は穏やかなアップダウンとなっていて歩きやすくなっており、頂上からは目の前にゆっくりと流れる錦川(クムガン)の景観を望むことができる。また、公山城で一番大きな楼閣である臨流閣(イミュガク)では、4月から10月の週末に守門将後交代式が再現されるので、時間が合えば見てみたい。
そして、公山城から歩いていける公州のもう一つの世界遺産、宋山里古墳群へと移動する。ここには、熊津時代の王と王族の墓と推定される7基の墓がある。全ての墓の主人は分からず1号、2号墳と番号で呼ばれているが、その中ではっきりと主人が分かっているのが百済第25代王・武寧王とその妃の墳墓だ。武寧王とは、民生の安定と百済の国力を伸張し、国際的地位を強化するなど対内外に大きな成果をあげた王だったとされ、この武寧王陵は、百済・高句麗・新羅の時代の墓のうち、埋葬者が明らかになった唯一の存在として、歴史的に大きな意味を持つものだ。1990年代後半までは、武寧王陵の中に直接入って見学することができたが、文化財保護のため、現在は入口が閉じられた状態となっている。その代わり、宋山里古墳群模型館には5、6号墳と武寧王陵の内部が再現されており、模型の中に入って観覧できるようになっている。また、武寧王陵の中から出てきた副葬品のレプリカや、武寧王陵の築造過程の模型なども展示されている。発掘された遺物は国立公州博物館に展示されているので、ぜひ、その足で博物館も巡りたい。
伝統家屋で宿泊体験、公州韓屋村
せっかく韓国に来たのだから、韓国情緒あふれる韓屋での体験は大きな思い出となるはず。「公州韓屋村(ハノクマウル)」は、武寧王陵と国立公州博物館の間にある9千坪の土地に2010年に作られた韓屋村だ。わらぶきの家と瓦の家の二通りの個別宿泊棟があり、希望によって好きなタイプを選ぶことができ、家族連れや恋人などの宿泊客から人気だ。この韓屋村の利点の一つは、伝統暖房施設である「オンドル」が設置されていること。黄土と木で建てられた宿泊棟は、客室の規模は大きくないものの、温かみが感じられる。韓屋といっても、客室ごとにトイレ・シャワー施設が付属しているので快適な宿泊が可能だ。宿泊料は平日は5万~20万ウォン、週末は7万~25万ウォン。
ただ宿泊するだけではつまらないという訪問者から人気なのが、多様な伝統文化体験だ。百済の王室のお茶に関する話を聞きながら茶道体験をする百済茶体験や、公州栗の粉にはったい粉と蜂蜜を混ぜて作る「クシク」という韓国伝統のお菓子作り等もできる。また、その他には韓紙工芸体験や百済人の服を着てみる百済王室服体験なども可能だ。
千年の古刹で癒しの時間を
公州市の周辺には、韓国の中でも有名な名刹が点在しているので、この機会に訪問してみたい。まずは市内から北東方面にある、公州を代表する麻谷寺(マゴクサ)へ向かおう。奉華山(テファサン)の麓にあり、この寺を取り囲む周辺の山と水の景色が太極模様のように曲線を描いていることから、朝鮮時代に起こった大きな戦乱にも巻き込まれなかったといわれる風水地理の良い場所にある。現在、この麻谷寺を含む、三国時代に創建され、優れた建築美と国家指定文化財を保有する7つの寺院が、2018年を目標にユネスコ世界遺産登録の準備するなど、注目が集められている。
また、公州市の南方向の鶏龍山(ケリョンサン)の麓にある東鶴寺(トンハクサ)も見逃せない寺院だ。新羅時代の724年に2つの塔を建立したのが始まりとされ、936年に新羅が滅びると新羅の人々の魂を慰める「招魂祭」がこの地で執り行われ、その際に建物が建てられ、寺院として確立されていったとされる古刹だ。
境内の大雄殿前にある三層石塔は高麗時代に建てられたが、本来は近くにある清涼寺から持ってきた塔で、違う時代に、違う石材で作られたものを組み合わせたものとして、忠清南道の文化財となっている。またここは韓国最古の尼僧であり、尼僧の教育機関である「東鶴僧伽大学」がある。
これだけは押さえたい公州グルメ
韓国の人たちが公州という名前を聞くと思い出すのが「栗」だ。公州市の正安面(ジョンアンミョン)は山脈に囲まれている盆地で、砂が多く水はけがいいことや日照料が豊富なことから栗の生育に非常に適しており、全国の栗生産量の15%を担っているほど。量だけではなく、栗の実が大きく、甘みが多いことから「公州の栗」は人気が高い。
そんな栗を使った「栗マッコリ」を公州市内では手軽に購入することができる。一般のマッコリに比べて黄色っぽく、栗のほのかな香りと甘みが感じられるため、女性からも人気が高い
そして、そんな栗を使った「栗ユッケビビンバ」も食べてみたい。公山城から近いところに位置する「市場精肉店食堂」では、その名前から分かるように、肉の専門店として焼肉やユッケを販売して40年の歴史があるところだ。上質のユッケと、細い千切りにした生の栗がご飯の上にたっぷりと載っている。他の野菜も細かい千切りにされていて、ご飯にも混ざりやすい。ユッケは柔らかく口の中でとろけるが、しゃきしゃきとした栗の歯ざわりが口の中をすっきりとさせ、バランスの取れた味だ。価格1万ウォン。
そして、公山城を訪れたのなら、ぜひ食べたい名物がある。それは「インジョルミ」というきなこの餅だ。朝鮮16代の王、仁祖(インジョ)が反乱を逃れて公州に避難した際、その知らせを聞いて、「イム」という名の民が餅を献上した。それを食べた王は「とてもすばらしい味だ」と感嘆し、絶味(チョルミ)という言葉に、餅を献上した民の名前を併せて「イムジョルミ」としたと伝えられる。城の出口付近には、インジョルミを売る屋台があるので、その絶味をぜひ味わってみよう。
また、この地域のソウルフードといえば日本のきし麺のような「カルククス」という麺料理だ。全国各地で販売されているものの、カルククスといえば、昔から公州の食べ物として知られている。他地域と違うのは、スープが赤く、辛めに作られていること。
有名な店としては旧市街、済民(チェミン)川畔にある「コガネカルグクス」だ。ここはもともと麺工場だったところを食堂に改装して営業し、カルククスと共に、平安道風のマンドゥジョンゴル(餃子鍋)が人気の店。自家製の手打ち麺を入れ、各種野菜と共に大きなマンドゥが一緒に入れられ、熱々の鍋を皆でつつく。辛いものが苦手な人はそのまま、深い辛味が感じられる「タテギ」という薬味を入れて汗を流しながら食べるとよりおいしい。マンドゥジョンゴル1万5千ウォン。
インジョルミ(左)とマンドゥジョンゴル(右)
呉施徳公州市長メッセージ
日本の皆さん、アンニョンハセヨ。公州市は百済の古都として貴重な古代遺跡を擁する歴史の街です。
今年7月4日にドイツのボンで開かれたユネスコ世界遺産委員会の席上で、百済歴史遺跡地区が世界遺産登録審査に最終合格し、公州市からは公山城と宋山里古墳群の2ヵ所が百済史跡区世界遺産という栄誉を授かりました。国内外からの訪問客も大きく増えており、私たちとしても新たな魅力の創造に力を注いでいるところです。
公州市内に入ると、錦江の雄大な流れに寄り添うように建てられた公山城が一望できます。また、宋山里古墳群は、百済時代475~538年にかけて在位した5代の王と王族の墓で、百済文化や歴史に触れられる公州随一の見どころといえるでしょう。
今年4月には公州駅が開業し、ソウルや仁川国際空港との間をKTXが運行しています。それを受け、公州駅を拠点としたシティツアーの拡充や観光案内所への日本語対応可能な人材の増員、多言語対応の広報施設の設置なども検討しています。
KTXでソウルから1時間。手軽に訪問できる百済文化の都市、公州市にて日本の皆さまのご訪問をお待ちしております。
Information
公州市にはKTXの利用が便利だ。今年4月からソウルの龍山(ヨンサン)駅から1時間で到着できる。仁川国際空港からも連結されているので、空港に到着してからそのまま公州へと鉄道を使っての訪問も可能だ。市内への移動は路線バスを利用。
| http://www.gongju.go.kr/japanese.do
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