古都の4つの要件を備えた百済歴史の扉を開く鍵益山市
ユネスコ世界遺産に登録された百済歴史遺跡地区のうち、2ヵ所の遺跡を持つ全羅北道益山(イクサン)市。これから世界の人々が訪れる観光地となる益山市の魅力について、益山市の朴慶澈市長に聞いてみた。
文/町野山宏記者
全羅北道 益山市長
朴慶澈
Q.まず最初に、益山市について紹介してください。
益山は、百済武王が王宮を建て、大きな志を抱いた場所で、弥勒寺址(ミルクサジ)や王宮里(ワングンニ)遺跡など、益山を代表する百済遺跡地区が、7月4日、ユネスコの世界遺産に正式登録されました。
また、紀元前194年の古朝鮮の箕準王(キジュンワン)が南方へ遷都して、自らを「ハンファン」と称し、最後に都とした所で、有史以来、4回都となった韓国で唯一無二の都市が益山です。
朝鮮時代、高宗在位中の出来事を記した「高宗実録(コジョンシルロク)」によると、三韓の「韓」を継承して大韓帝国という国名を定めたとあり、馬韓(マハン)を本流としている益山こそが韓流発祥の地であり、根源だといえます。
かつては貴金属産業で目覚ましい復興の時期を経て、最近、ジュエリー企業がUターンして再び益山に定着しつつあり、第2のルネサンスを夢見る名実共の宝石の都市でもあります。
Q.益山市の世界遺産や代表的な観光コンテンツ、特産品などについて紹介してください。
7月4日、韓国を代表する百済歴史文化遺産である益山の弥勒寺址と王宮里遺跡が、韓国で12番目のユネスコ世界遺産に登録されました。弥勒寺址と王宮里遺跡は、7世紀初頭、百済第30代の武王(ムワン)の代の王都として輝かしい文化を花咲かせた百済後期の中心地で、宮殿と国家寺院、王陵、山城など、古都が備えるべき要件を全体的に示しているところです。
弥勒寺址は、韓国の仏教建築文化を代表する文化遺産で、弥勒信仰を基礎とした3塔3金堂の独特な伽藍構造を有しています。国宝第11号弥勒寺址石塔は木塔の築造方法をそのまま適用して建てられた石塔で、百済人の優れた工芸技術と美的感覚を垣間見ることができます。これは、百済時代の寺院建立の木塔・石塔築造技術を示す独特で特出した証拠であり、古代伽藍の実体研究に重要な遺跡として評価されています。
王宮里遺跡は、韓国式庭園の景観と造園技術の優れた事例として、仏教と儒教、風水地理説に立脚した風景式庭園が発達しており、中国式と日本式庭園が混成された独特な様式を備えています。また、陰陽五行説に基づいた風水説の影響で、陽気、つまり宅地を選択する風習が盛んになって地形の制約を受け、後苑に力を注ぐ傾向が現れたわけですが、階段式になっている後苑である「花階(ファギェ)」は韓国にしかない特殊な構造の庭で、6~7世紀を代表する庭園遺跡であり、東アジアの王城のシステムを最も明らかに示す物的資料として高く評価されています。
このような優れた遺産である百済の歴史遺跡地区をはじめとする百済遺産探訪など、一度訪ねたらもう一度訪ねたくなるような益山ならではの観光商品を継続的に運営しており、その他の多くの益山の観光地を連携して、観光、アクティビティーを開発・運営しています。
益山は、「味の故郷」といわれる全羅道にあるだけに、おいしいものがたくさんあります。中央洞(チュンアンドン)、於陽洞(オヤンドン)、東山洞(トンサンドン)、慕懸洞(モヒョンドン)、永登洞(ヨンドゥンドン)一帯にグルメ通りがあり、様々なおいしい料理が味わえます。また、国内最大の鶏の生産メーカーであるハリムがあり、鶏料理が特化されています。益山市の代表ブランドである「TOP MARU米」は、全国最高の品質を誇っています。
武王の幼名は「薯童」で、「芋を売る子供」という意味ですが、今の金馬面・龍華山で山芋を掘って暮らしていたという物語が伝わっており、益山は「薯童山芋」が有名です。山芋醤油、山芋餅、山芋トッポッキや、伝統酒である山芋薬酒などに加工され、市民はもちろん、観光客にも大人気を博しています。山芋を利用した専門料理店もありますので、ぜひ味わってみてください。
益山の「紫サツマイモ」もおススメです。特に紫サツマイモを原料に開発したマッコリ「チャジュビッコウンニム(紫色の美しい方)」は、一般のマッコリに比べて香りと色が優れ、後味がすっきりしていて、女性や若年層を魅了しています。
韓国の穀倉地帯を背景に、良い水と気候などを活用して作り上げる伝統醤類もおすすめです。咸悅邑(ハムヨルウプ)多松里(タソンニ)には、2万坪の松林と3500以上の伝統甕が並ぶ甕庭園があります。ここでは厳選した100%国産有機原料のみを使用して自然発酵熟成した、味と香りが生きている有機伝統醤類が生産されています。生産地である「コスラク」は、伝統醤類を味わうだけでなく、よい景色を堪能することができる所ですので、ぜひ一度立ち寄っていただきたいと思います。
Q.海外観光客の現状と、特に日本の観光客誘致のために備えているものがありますか?
益山は弥勒寺址と王宮里遺跡が百済歴史遺跡地区として世界遺産に登録されたことをきっかけに、外国人観光客、特に多くの文化を共有してきた日本の観光客の訪問を待っています。これに備えて益山市では以前から多くの準備をしてきました。
今年2月には、観光インフラの構築のために関連企業とのMOU締結を皮切りに、外国人専用免税店である「百済免税店」をジュエルパレス内にオープンし、外国人観光客誘致のための関係者との懇談会、会議などを続けています。
また、観光客の便宜のために、観光施設や大型飲食店を継続的に発掘しており、日本人観光客の趣向を踏まえた観光コースも引き続き開発しています。日本語ができる観光解説士を育成し、インセンティブの提供も検討しています。その結果、毎週、日本をはじめ多くの外国人観光客が益山を訪ねています。
また、特色のあるテーマ観光商品の開発のために、全羅北道コレール、公州・扶餘及び各種観光協会と協力して広報効果を高めるなど、1泊2日、2泊3日などの観光客嗜好に合わせた益山ならではの観光ツアー商品を開発しています。また、観光インフラ構築のために既存の観光施設の改・補修を行い、新規観光ホテルを誘致する計画です。益山駅や主要観光地などの観光案内標識48ヵ所にユネスコの世界遺産エンブレムを追加、観光案内所、様々な観光地案内施設の再整備なども継続的に促進します。
その他、文化観光解説士の能力強化のための教育・統合解説ガイドラインの作成、英語以外の外国語が可能な文化観光解説士を追加確保、弥勒寺址観光地造成事業を通じた体験館やグルメ造成、薯童と善花をテーマにした市立芸術団常設公演の推進などの事業を実施する予定です。
Q.海外観光客のための専門観光商品はありますか?
慶州、公州、扶餘に加え、韓国の4大古都である益山市は、古代王国が備えるべき4つの条件を備えており、二千年の古都と呼ばれています。王宮(百済王宮里遺跡)、王宮関連寺院(弥勒寺址、帝釋寺址)、山城(弥勒山城、五金山城、都土城)そして陵(雙陵)が残っており、益山が2千年前の時間の扉を開く鍵となる都市であることを示しています。
日本人観光客の訪問の際にアンケート調査などを通じて趣向を把握する努力をしており、これを反映して、グルメ、アクティビティー、観光地などを発掘しています。韓流文化を代表する数多くの映画が撮影を行った刑務所のセットをはじめ、宝石の街であることを示す宝石博物館、ジュエルパレスのほか、家族・団体旅行などの特性に合わせた観光地が散在しており、様々な観光地と連携した観光商品を運営しています。
また、益山の17ヵ所のおいしい店を選定して、外国人にも訪ねられるよう便宜を図っています。
Q.市長ご自身が個人的にお勧めする益山市の観光地はありますか?
遺跡としては、3塔3金堂の東洋最大の寺院である弥勒寺址をはじめ、典型的な百済石塔の美しさを秘めた国宝289号である王宮里五層石塔、武王と王妃の陵として知られる益山雙陵(サンヌン)と王宮里遺跡、古都里(コドリ)石造如来立像、笠店里(イプチョムニ)古墳、益山土城など、百済の息吹を秘めた数多くの遺跡があります。
その他にも益山には、4大宗教の痕跡が残る歴史の街です。韓国初の神父である金大建(キム・デゴン)神父が、中国で司祭品を受けて、韓国で第一歩を踏み出したことを記念して建てられたナバウィ聖堂、弥勒寺をはじめとする百済時代から伝わる数々の仏教遺跡、儒教の伝統である男女有別思想が現れたL字形の建築様式を持つ杜洞(トゥドン)教会などがあります。
昔から宝石で有名な益山の地域の特色を生かして設立された宝石博物館もぜひ訪問してみてください。益山宝石博物館は百済文化遺跡と宝石の美しさを観光資源として活用するために、14万㎡規模の王宮宝石テーマ観光地の中に建設されており、貴重な宝石用原石などを11万点以上所蔵している世界レベルの博物館です。同じく宝石テーマ観光地にあるジュエルパレスの百済免税店では、外国人事後免税店があり、美しい宝石のショッピングができます。
このほかにも聖堂(ソンダン)刑務所セット場も名所です。聖堂刑務所セット場は「アイリス」と「怪しい三兄弟」のロケ地であり、映画「ホリデー」、「偉大なる系譜」、「タチャ~神の手~」、「7番房の奇跡」など数々のドラマや映画作品が撮影され、現在も刑務所を背景とした数々の作品が撮影されている全国で二つとない刑務所のセット場で、全州と並んで映画のメッカとして急浮上する大きな役割を果たしています。
益山に来られれば、忘れられない最高の思い出をつくることができるでしょう。再探したい都市として記憶されるものと確信しています。
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