ファッションタウン東大門を支える町の素顔に触れる | 縫製歴史館「イウムピウム」
ファッションタウン
東大門を支える町の素顔に触れる
縫製歴史館「イウムピウム」
ソウルは物語の宝庫だ。景福宮など有名な観光地に行かなくても、実はソウルの街々に興味深い物語がたくさん隠されている。最近、それらを発掘して紹介する二つの展示館がオープンした。西大門と東大門に面した二つの地域、「セムナンロ」と「昌信洞」にまつわる魅力的なエピソードを、展示館を訪問して探ってみた。
文/町野山宏記者
「ファッションタウン」東大門。ソウルに来る目的の一つが東大門でショッピングをすることという人も少なくないだろう。安いだけでなくデザインも優秀な韓国のファッションの人気はさめることを知らない。それでは、東大門のファッションアイテムはどこから来るのかと考えたことはあるだろうか?それは東大門からほど近い昌信洞(チャンシンドン)という町。町のあちこちからミシンの音が聞こえ、スチームの湯気が立ち上る縫製の町だ。その昌信洞に縫製の過去と現在、未来を見ることができる縫製歴史館が誕生した。
縫製の町・昌信洞は興仁之門(東大門)に接し、洛山の山すそにびっしりとレンガ造りの家が並ぶところ。地下鉄東大門駅から出て丘を登っていくと、そこには活気付いた素顔のソウルがある。少し上ると道の両側からミシンの音が聞こえてくる。ひっきりなしに道路を行きかうバイクの荷台には長い生地のロールや完成した服の包みが積まれている。目的地の縫製歴史館に至る路地にも縫製工場が並んでいるが、縫製関係のイベントの看板がところどころに見られる。数十年の歴史を持つ縫製の町に新しい風が吹き始めている様子を示す洗練されたデザインの看板だ。そんな坂道を上っていくと、路地の奥に新築の建物がある。4月11日にオープンしたばかりの縫製歴史館だ。
この歴史館には「イウムピウム」という別名がある。「つなげる」という意味の「イウム」と、「花咲く」という意味の「ピウム」という二つの言葉を合わせたもの。布を縫い合わせることで花咲かせた縫製の文化を意味すると共に、縫製の過去と現在を「つなげる」ことで未来を「花咲かせよう」という願いが込められている。
1階から入ると最初に迎えるのは昌信洞の職人たちの紹介動画。長年この町でこの仕事を営んできた42人の職人のインタビューしたダイジェスト映像と、彼らを代表する9人のインタビューの詳細映像を見ることができる。自分にとって縫製とは何かを語る彼らの言葉は、「人生」、「生活」、「夢」とさまざまだが、一人ひとりから真摯さを感じられ、こだわりと愛着が感じられる。今まで記者が勝手に持っていた「たいへんな労働を強いられるかわいそうな人たち」というイメージががらがらと崩れ去った。長年経歴を積んできた40~50代の方が多いが、この仕事に自分の未来を掛けた青年も少なくなく登場することにも驚いた。
プロローグとなる映像を見て、いよいよ展示を観覧。エレベータで2階に上がると、壁に掲げられた大きなボタンが目に入る。ここではボタンを販売している。カラフルなボタンの中から気に入ったボタンを買って、持ってきた服につけることもできる。また、昌信洞のマスターたちがつくった服を購入することもできる。
隣の展示室は、壁一面に四角や楕円形の額が並んでいる。額の中にはカテゴリーに分けられて縫製の歴史や技術、文化などについて説明している。テキストだけではなく、写真やイラストなどで分かりやすくなっており、ビジュアルだけでも充分楽しめる。特に展示室の奥にあるレトロチックなミシンは、ハンドルを回すと画面にワイシャツを作る過程が映像で映し出される。シンプルにつくられた映像が興味深い。
この展示室では世界と韓国の縫製の歴史を知ることができる。スタッフに簡単に説明してもらったが、産業革命によって機械化された縫製産業が韓国で本格的に始まったのは60年代のこと。60~70年代は国家主導で外貨獲得の手段として縫製産業が発展した。それによって女性の社会進出の機会となったが、反面、劣悪な環境で女工たちは低賃金で長時間労働を強いられた。それを社会に訴えようと、チョン・テイルという青年が焼身自殺を図るなど事件が起こることによって、政府による労働条件の改善の努力がなされた。それでも取締りの目を逃れた業者は昌信洞に移って営業を続けたという。もう一つの問題としては、物価がどんどん上がっている中でも20年前と変わらない価格でしか卸せていない状況だ。この歴史館がつくられたのは、そのような状況を打開し、製品の価値を高めることにある。
この展示室の一角は3階まで吹き抜けになっており、額が並ぶその上を、昌信洞の「マスター」たちの作品が回っている。展示室内の階段で3階に上がると、そこにはソウル市の公募で選ばれた10人のマスターの写真と彼らの使う鋏などの道具が展示されている。彼らの笑顔には自分たちの技術に対する自信が感じられ、使いこなされた道具からは経歴が感じられる。マスターたちの作品は東大門で販売されているということで、ショッピングをする時の見方も変わってくるようだ。
3階の展示を見終わると、順路は外の階段へ続いている。4階は「裁縫カフェ」。山の斜面に形成された昌信洞の町が見渡せる空間では無料のコーヒーでくつろげるようになっている。この町のどこかで縫製職人たちが今も布を裁断し、ミシンを踏み、ボタンを掛けているのだと思うと感慨深い。
地下1階の縫製作業室では簡単な服を作る体験コースや、その場でできる簡単なコースも準備されており、実際に体験で楽しめる。
縫製歴史館「イウムピウム」
http://iumpium.com
Tel: +82-2-747-6471~2
観覧時間:火~日、AM10:00~PM06:00
休館日:毎週月曜日、公休日
関連する記事はこちら
<公演レビュー> B-BOYに恋したバレリーナ
<公演レビュー> B-BOYに恋したバレリーナ バレリーナ、路上のダンサーを愛す 「24時間が過ぎたのに胸の震えが止まらない」公式サイトにある、一人の観覧客の観覧レビューが公演「B-BOYに恋したバレリーナ」の印象深い余韻をそのまま表現する。 「B-BO…続きを読む
Seoul ナムサン・ハノクマウル(南山韓屋村) で小正月イベント開催
2017年2月11日、ナムサン・ハノクマウルで「月光ブルノリ、小正月祭り」イベントが開催される。昼間には五穀ご飯を先着順で無料配布し、17時からは公演が行われる。その後、タルジプ焼き(積み重ねた藁や薪を燃やすイベント)で今年の願い事を祈る。 昔から、小正月になると村の住民が集まっ…続きを読む
ノンバーバル・パフォーマンス 「ファイヤーマン」
消防士のアクションと笑いで 暑さをふきとばそう! 韓国旅行で出会う代表エンターテイメントジャンルであるノンバーバル・パフォーマンス系に新たな作品が登場した。タイトルは「ファイヤーマン」。消防士を主人公にアクロバットと、道具などを使わずに都会の建物を移動するエクスト…続きを読む
筆洞ストリートミュージアム
現代アートを路地で楽しむスタンプラリーに出発しよう 筆洞ストリートミュージアム 最近、韓国では都市再生が盛んに行われており、古い家屋をカフェやコミュニティースペースに改造して地域の再生に役立てる事業があちらこちらで見られる。鍾路区の益善洞(イクソンド…続きを読む
「K‐スタイルハブでミッションツアー&韓服体験」
韓国観光公社が8月末まで、ソウル清渓川の近くにあるK‐スタイルハブ(韓国観光公社ソウル社屋)で、国内外の観光客を対象に韓服体験を含むK‐スタイルハブ・ミッションツアーイベントを開催する。「韓国の味と粋、そして興を探せ!」というテーマで進行される今回の行事は、無料のミッションゲー…続きを読む
ミメシス・アートミュージアム
作品と建築が調和する「光による美術館」 ミメシス・アートミュージアム 秋がやってきた。秋といえば「読書の秋」という人は、坡州市の出版団地を一度訪問することをお勧めする。韓国の出版社の洗練された社屋が並び、書店やブックカフェも兼ねているため、建築と良書が同時に楽しめる地域だ。また…続きを読む
仁川の近代文化との出合い 開港場通り
近代文化との出合い 開港場通り 近代化が始まった所、西海岸第1の貿易港。仁川の開港場ヌリ道を訪ねてみよう。 まず仁川駅から出発してみよう。仁川駅は駅そのものが歴史的な場所だ。 韓国の鉄道は1899年9月18日に開通したが、最初に開通式を行った所が仁川駅だ。現在の駅舎は1925年に…続きを読む
暑いソウルの夜も有意義に! 「ソウル・夜オバケナイトマーケット」
日中の気温が30度を超え、夜も寝苦しいソウルの夏。蒸し暑い夜を少しでも涼しく過ごそうと、ソウルの人たちはトッチャリ(ビニールシート)や食べ物を持って、漢江(ハンガン)へと出かけます。静かなを夕涼みを想像して出かけてみると、そこはお祭り騒ぎ! 毎週金・土曜日の夜、「パムトッケビ(…続きを読む