ファッションタウン東大門を支える町の素顔に触れる | 縫製歴史館「イウムピウム」

2018年06月12日

ファッションタウン
東大門を支える町の素顔に触れる
縫製歴史館「イウムピウム」

ソウルは物語の宝庫だ。景福宮など有名な観光地に行かなくても、実はソウルの街々に興味深い物語がたくさん隠されている。最近、それらを発掘して紹介する二つの展示館がオープンした。西大門と東大門に面した二つの地域、「セムナンロ」と「昌信洞」にまつわる魅力的なエピソードを、展示館を訪問して探ってみた。
文/町野山宏記者

 

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「ファッションタウン」東大門。ソウルに来る目的の一つが東大門でショッピングをすることという人も少なくないだろう。安いだけでなくデザインも優秀な韓国のファッションの人気はさめることを知らない。それでは、東大門のファッションアイテムはどこから来るのかと考えたことはあるだろうか?それは東大門からほど近い昌信洞(チャンシンドン)という町。町のあちこちからミシンの音が聞こえ、スチームの湯気が立ち上る縫製の町だ。その昌信洞に縫製の過去と現在、未来を見ることができる縫製歴史館が誕生した。

縫製の町・昌信洞は興仁之門(東大門)に接し、洛山の山すそにびっしりとレンガ造りの家が並ぶところ。地下鉄東大門駅から出て丘を登っていくと、そこには活気付いた素顔のソウルがある。少し上ると道の両側からミシンの音が聞こえてくる。ひっきりなしに道路を行きかうバイクの荷台には長い生地のロールや完成した服の包みが積まれている。目的地の縫製歴史館に至る路地にも縫製工場が並んでいるが、縫製関係のイベントの看板がところどころに見られる。数十年の歴史を持つ縫製の町に新しい風が吹き始めている様子を示す洗練されたデザインの看板だ。そんな坂道を上っていくと、路地の奥に新築の建物がある。4月11日にオープンしたばかりの縫製歴史館だ。

この歴史館には「イウムピウム」という別名がある。「つなげる」という意味の「イウム」と、「花咲く」という意味の「ピウム」という二つの言葉を合わせたもの。布を縫い合わせることで花咲かせた縫製の文化を意味すると共に、縫製の過去と現在を「つなげる」ことで未来を「花咲かせよう」という願いが込められている。

1階から入ると最初に迎えるのは昌信洞の職人たちの紹介動画。長年この町でこの仕事を営んできた42人の職人のインタビューしたダイジェスト映像と、彼らを代表する9人のインタビューの詳細映像を見ることができる。自分にとって縫製とは何かを語る彼らの言葉は、「人生」、「生活」、「夢」とさまざまだが、一人ひとりから真摯さを感じられ、こだわりと愛着が感じられる。今まで記者が勝手に持っていた「たいへんな労働を強いられるかわいそうな人たち」というイメージががらがらと崩れ去った。長年経歴を積んできた40~50代の方が多いが、この仕事に自分の未来を掛けた青年も少なくなく登場することにも驚いた。

プロローグとなる映像を見て、いよいよ展示を観覧。エレベータで2階に上がると、壁に掲げられた大きなボタンが目に入る。ここではボタンを販売している。カラフルなボタンの中から気に入ったボタンを買って、持ってきた服につけることもできる。また、昌信洞のマスターたちがつくった服を購入することもできる。

隣の展示室は、壁一面に四角や楕円形の額が並んでいる。額の中にはカテゴリーに分けられて縫製の歴史や技術、文化などについて説明している。テキストだけではなく、写真やイラストなどで分かりやすくなっており、ビジュアルだけでも充分楽しめる。特に展示室の奥にあるレトロチックなミシンは、ハンドルを回すと画面にワイシャツを作る過程が映像で映し出される。シンプルにつくられた映像が興味深い。

 

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この展示室では世界と韓国の縫製の歴史を知ることができる。スタッフに簡単に説明してもらったが、産業革命によって機械化された縫製産業が韓国で本格的に始まったのは60年代のこと。60~70年代は国家主導で外貨獲得の手段として縫製産業が発展した。それによって女性の社会進出の機会となったが、反面、劣悪な環境で女工たちは低賃金で長時間労働を強いられた。それを社会に訴えようと、チョン・テイルという青年が焼身自殺を図るなど事件が起こることによって、政府による労働条件の改善の努力がなされた。それでも取締りの目を逃れた業者は昌信洞に移って営業を続けたという。もう一つの問題としては、物価がどんどん上がっている中でも20年前と変わらない価格でしか卸せていない状況だ。この歴史館がつくられたのは、そのような状況を打開し、製品の価値を高めることにある。

この展示室の一角は3階まで吹き抜けになっており、額が並ぶその上を、昌信洞の「マスター」たちの作品が回っている。展示室内の階段で3階に上がると、そこにはソウル市の公募で選ばれた10人のマスターの写真と彼らの使う鋏などの道具が展示されている。彼らの笑顔には自分たちの技術に対する自信が感じられ、使いこなされた道具からは経歴が感じられる。マスターたちの作品は東大門で販売されているということで、ショッピングをする時の見方も変わってくるようだ。

3階の展示を見終わると、順路は外の階段へ続いている。4階は「裁縫カフェ」。山の斜面に形成された昌信洞の町が見渡せる空間では無料のコーヒーでくつろげるようになっている。この町のどこかで縫製職人たちが今も布を裁断し、ミシンを踏み、ボタンを掛けているのだと思うと感慨深い。

地下1階の縫製作業室では簡単な服を作る体験コースや、その場でできる簡単なコースも準備されており、実際に体験で楽しめる。

 

縫製歴史館「イウムピウム」

http://iumpium.com
Tel: +82-2-747-6471~2
観覧時間:火~日、AM10:00~PM06:00
休館日:毎週月曜日、公休日

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