韓国33観音聖地をめぐる「私探しの旅」~西南圏~
韓国33観音聖地をめぐる「私探しの旅」~西南圏~
ありふれた韓国旅行ではない癒しの旅行を求める人たちに、お勧めしたいのが「韓国33観音聖地をめぐる旅」だ。1700年の歴史を誇る韓国の仏教文化は、同じ仏教文化圏の日本のそれとはまた赴きが違い、色鮮やかながらも、素朴なものが多い。寺院の多くが奥深い山の中にあるため、山の霊気も感じることができる。そんな古刹・名刹の中で本尊が観音菩薩である寺院の中から厳選された「韓の国33観音聖地」を一つひとつ巡回することにより、心に安らぎを感じると共に、韓国の隠された美しさも同時に発見できる旅となる。一度に巡るには広範囲にわたるため、4つのエリアに分けてその魅力を把握した後、自分探しの旅へと出かけよう。
文/大成直子
百済から朝鮮の宝物と出会う旅
ソウルをはじめ、京畿道、忠南・忠北、全南・全北という広範囲にわたり韓半島の西~南エリアに存在する観音聖地を訪れれば、百済時代から朝鮮時代の宝物たちと出会える旅となる。2015年世界文化遺産に登録された「百済歴史遺跡地区」の所在地、忠清南道、全羅北道には、1500年前に栄えた百済時代の寺院が残されているからだ。
まずは、その百済時代に建てられた寺、修徳寺(スドクサ)へと向かう。修徳寺は百済の威徳王(554~597)在位時に、知命法師が創建したとされていて、文献に残された興輪寺、王興寺など12ヵ所もあった寺院の中で唯一現存している寺院だ。その境内には1308年に建てられた韓国最古の木造建築として国宝49号の大雄殿が残っており、今も仏教信者たちが祈祷を捧げている。奈良の飛鳥寺と姉妹寺院となっているためか、日本人には懐かしさを感じさせる風景が広がる。
そして、全羅南・北道の中で最も歴史が古い寺院である金山寺(クムサンサ)へと向かう。この寺院は百済時代29代目の王である法王(599年)によって創建され、その後、眞表律師(ジンピョユルサ)が4年をかけて寺を重建した1400年もの歴史を持つ古刹だ。この寺院を代表する建物はなんといっても弥勒殿だ。金堤平野は昔の百済に属した所で、百済が新羅に滅ぼされたことから、絶望を感じた百済遺民たちが弥勒信仰のよりどころとしたのがこの金山寺であり、弥勒信仰(法相宗)の根本道場とされている中で、中心的な役割を果たした場所だ。国宝第62号、韓国内で唯一の三階建ての木造建築物である弥勒殿は、外からは三階建に見えるが、内部に入ると3階全てが吹き抜けになっていて、その中に巨大な弥勒菩薩像と左右に仏像が安置されている。弥勒菩薩像が11.82m、左右の仏像は8.8mもの大きさを誇る。
朝鮮王が建てた寺へ
そんな百済時代から移動し、今度は朝鮮時代の王が建てた寺院、龍珠寺(ヨンジュサ)へと移ろう。普通、寺院の入り口には一柱門があるが、ここには神社の鳥居のような紅一門が見えてくる。紅一門とは位牌を祭る所や宮殿のような神聖な場所に置かれ、赤い色で塗められた門により邪鬼を追い出す効果があると伝えられるものだ。そして紅一門の次には一つの瓦屋根の下に三つの門が並ぶ、まるで両班の家の門のような三門が現れる。通常の寺院とはだいぶ違った風景だが、これはこの寺院が一般の寺院ではなく、王の父親を祭ることを目的に建てられたものだからだ。
思悼世子は朝鮮第21代王の英祖の2番目の息子だったが、父である英祖との対立により米櫃に閉じ込められ、8日目に亡くなってしまった悲運の人物。彼の息子である正祖(イサン)が思悼世子の陵である顯隆園の祭事を執り行う斎宮としてこの寺院を重建しながら、一般の寺院とはだいぶ雰囲気が違う寺院となっており、正祖が父に向けた「孝の精神」が感じられる寺院だ。
そして、韓国3大海水観音が奉安される普門寺(ポムンサ)へと向かう。ここは南海菩提庵、洛山寺紅蓮庵と共に韓国3大観音道場として挙げられる所だ。祈祷が聞かれる寺院として有名であり、 素晴らしい景色から江華八景にも挙げられるため、交通が不便なことにも関わらず常に多くの人々がここを訪れる。
ここは新羅善徳女王4年(635)に懷正大師が創建した寺院と伝えられる。創建後14年が過ぎた頃、この町に住んでいた漁師の網に仏像と羅漢像22体が引き上げられ、夢の中で老僧が命じたとおり落袈山の石室に奉安したという伝説により、全国でも祈祷所として有名になった。そして、法堂の裏から磨崖仏へと向かおう。419段の階段は結構急だが、磨崖仏に達すると、目の前に西海岸が一面に広がる絶景が現れる。この磨崖観音座像は、仁川市有形文化財第29号に指定された花崗岩の岩の下に刻まれた観音像が待っている。四角い顔にずんぐりとした鼻、はれた目が大きな岩に刻まれ、頭には派手な宝冠が表現されている。観音様はゆっくりと山から下界を見おろし、海の、そして人々の安全と幸せを守るために静かに佇んでいる。
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