釜山旧都心ストーリーツアー

2018年02月07日

釜山に隠された物語に出会う

釜山旧都心ストーリーツアー

 

 多彩な観光地が旅人を誘惑する街・釜山。ソウルに比べると街の規模は小さいものの、山あり海あり街ありの人気観光地だ。そんな釜山に数年前から人気が出ている観光が、旧市街を歩くツアー。「釜山旧都心ストーリーツアー」と銘打って、釜山観光公社が6つのコースを提案し、各コースでは実際にここで住んでいる「イヤギハルベ・ハルメ(語り部爺さん・婆さん)」が無料で案内をしてくれるプログラムが実施中だ。それぞれが個性的で興味深いストーリーが隠されたコースだが、そのうち、特に人気を集めている「イバグキルを歩く」コースを実際に歩いてみた。
文/町野山宏記者
「イバグキル」が釜山駅から始まる。KTXの釜山駅を出て大通りを渡り、路地に入り込むと、古い建物が目に付き、2階建ての商店も見える。

路地に入ってしばらく歩くと、レンガ造りの古めかしい建物が見えてくる。これが旧・百済病院だ。1927年に建てられた、釜山で最初の近代式個人病院だった。しかし、行き倒れの旅人を使った人体標本があるという噂が広がって患者数が激減、院長は日本に夜逃げしてしまい、1932年に閉院した。その後は中華料理店や中国大使館などさまざまな用途に使われたが、最近、1階にブラウンハンズという家具ブランドが経営するカフェがオープンし、人気を呼んでいる。

 

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外観の凝った装飾が印象的だ。最初に建てられた部分と増築した部分で構造が違っているのも興味深い。病院の建物にしてはとてもモダンな印象で、精を込めて建てられたことが分かる。

アーチ型の鉄の扉を開けて中に入ると、レンガ造りの壁がむき出しになって、歴史的建造物としての趣が感じられる。部屋の構造も興味深い。床の高さが部屋によって違うため、部屋自体の雰囲気も違うのだ。もちろん、コーヒーの味にもこだわりが感じられる。もう一つ、このカフェに行ったら、ポイントカードをつくることをお勧めしたい。同じスタンプが並んだものではなく、1から10までのスタンプそれぞれが違うイラストになっており、一つ押すたびにだんだんと絵が完成していくというこだわりようなのだ。

カフェだけでなく、日本でも人気のマッコリ「福順都家(ポクスンドガ)」が入店するといううわさもあり、これからさらに人気が高まりそうだ。

旧・百済病院の隣には、南鮮倉庫跡が残っている。1900年に建てられた、咸鏡道からの海産物などを保管したレンガ造りの物流倉庫だった。主にスケトウダラを保管していたという。百済病院と共に100年前の姿を残していたが、残念ながら2009年に解体されて、大型スーパーが建っており、レンガ造りの塀だけが残されている。

 

釜山の人たちの苦労の跡が残る「168階段」

ここから山のほうへだんだん登っていくのだが、細い道がいくつも出ているため、コースが分かりにくい。冊子を持ってうろうろしていると、後ろから一人のおばあさんが「この道だよ」と教えてくれた。その道はすでに坂だったが、おばあさんは坂道をものともせずに登っていく。「こんな坂の多いところでたいへんですね」と声をかけると、「このあたりはまだ平地だからね」とおばあさん。「これが平地?」と疑問に思ったが、後でその意味が分かるようになる。

細い路地を抜けて、草梁(チョリャン)小学校の前に出た。学校の隣には石造りの草梁教会がそびえている。1893年に創設された漢江以南では初という歴史を持った教会だ。日本統治時代の神社参拝の強要に抵抗した朱基徹(チュ・ギチョル)牧師が担当した。韓国戦争の時、釜山に避難してきていた李承晩大統領がここで礼拝をし、祈祷したという逸話も残っている。

草梁教会の隣の路地は、釜山東区の歴史的人物を紹介するパネルが並んでいる。日本人にはなじみの薄い歴史的人物もいれば、歌手ナ・フナやコメディアンのイ・ギョンギュ、音楽監督のパク・カルリンなどのおなじみの人物も見受けられる。

塀の終わりまで来ると、本格的な坂が目の前に姿を現す。朝鮮戦争当時、釜山に避難してきた人たちはこの山腹に家を建てて暮らしていたという。そんな地域で人気なのが、「168階段」。人物紹介の壁が終わったところから階段が始まっていた。「これが168階段か。まあ、大したことないな」と思って勇んで登った。が、その考えは甘かった。階段を上りきると目の前に、その階段とは比べ物にならない高い階段がそびえていたのだ。高さもさることながら、傾斜も並大抵のものではない。ここで先ほどのおばあさんの言葉を思い出した。「このあたりはまだ平地だからね」。この傾斜に比べれば、先ほどの坂は確かに平地に過ぎなかったのだ。ここに住む住民は皆、この急な階段を毎日何度も上り下りしたのだろう。

 

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数年前まではこの階段を体験するには一段一段登るしかなく、「私には無理だ」と思った人は、階段の前で引き返すしかなかった。しかし、体力に自信がない人に朗報がある。階段の脇を上るモノレールが設置されたのだ。階段の脇にはレトロな雰囲気を漂わせるモノレール乗り場があり、無料で楽に上まで登ることができる。記者もどちらにしようかと迷ったが、「話のネタにしなければ」と階段に挑んだ。

記者は半分躊躇しながら階段に挑んだが、周りの子供たちは我先にと上っていく。若いカップルは手をつないだり、お互いに写真を撮り合いながら楽しそうに上っている。息が切れてしまうかとも思ったが、途中で一休みする場所が何ヵ所か設けられているため、それほどのたいへんさは感じられない。特に、少し上がっただけで驚くほど視界が開け、釜山の街が一望できる。街の向こうには海が広がり、広安大橋も見える。もっと上ったらどんな景色が見えるのだろうという期待感も高まる。また、この近くに住んでいた詩人を記念した展望台があったり、「屋根裏おもちゃ箱」と名づけられた博物館があったりと、飽きずに上れるのが嬉しい。

 

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そして階段を上りきると、やはり途中の展望台から見た景色とは段違いの眺めが広がっていた。上りきった達成感も手伝って、とてもいい気分。思わず叫んでしまいたくなるが、住宅地でもあるため、大声を出すのは控えよう。この168階段は、一昨年ヒットしたドラマ「ショッピング王ルイ」のロケ地ともなった場所で、展望台には主人公の二人の等身大のパネルもあるため、パネルと一緒に記念撮影してもいい。階段を上りきったところには釜山名物のオムク(おでん)が食べられる「イバグノリト」というカフェもあり、眺めもいいので、疲れたら一休みしてもいいだろう。
168階段の上にはもう一つの見所がある。童話の中から飛び出してきたような、オブジェに満ちた建物。これは「イバグ充電所」と名づけられたゲストハウスだ。外観も興味深いが、部屋の窓から釜山の街の絶景を眺められるのがこのゲストハウスの利点。宿泊費も手ごろなため、次に利用してもいいかも知れないと思わされる。

これだけ上ってきても、まだまだ上には道が延びている。イバグ充電所の右の方へ回っていき、路地に入ると見えてくるのが「イバグ工作所」。釜山の山腹道路を中心とした都市再生事業「山腹道路ルネサンス」の拠点となっている空間だ。この周辺の住民が持っているさまざまなストーリーを集めてアーカイブし、それを企画展示として紹介している。展示だけではなく、昔の学生服を着て周辺を散策できるサービスも行なっている。記者は体験しなかったが、友達同士で写真を撮り合っている学生たちの姿が微笑ましかった。

イバグキルはここからもさらに続いており、釜山に住んでいた詩人・柳致環(ユ・チファン)を記念した「柳致環ポスト」や、山すそを意味する釜山方言「カコマク」を名前にした、住民たちが運営するカフェなどがある。

釜山観光公社の関係者は「既存の釜山観光では体験できなかったすばらしい経験ができます。ストーリーのある釜山の隠されたスポットを体験したいと思われるなら、釜山旧都心ストーリーツアーを積極推薦します。旧都心ストーリーツアーで欠かすことができない日本に関係した名所も直接見て体験したらきっと後悔しない旅となるでしょう」と語った。
昔からのさまざまな「イバグ」が残っている「イバグキル」、そんなストーリーを探しに訪ねてみてはいかがだろう。

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Information

釜山旧都心ストーリーツアーのコースは、「イバグキル」のコースのほか、6つのコースが釜山観光公社のサイト(http://bto.or.kr/jp/06_visitor/z01.php)に紹介されている。(韓国語のサイトには新しく追加されたコースも含め7コース)住民のボランティア「イヤギハルベ・ハルメ」によるツアーも行なっている。無料だが、ツアー参加の2週間前までに申し込みが必要。1人から参加できるバスを含めた有料ツアー(http://www.busanbustour.co.kr/)もあり、専門のガイドが他では聞けない話を聞かせてくれる。ガイドが自転車をこぎながら案内してくれる「イバグ自転車」ツアー(1時間/大人15000ウォン)もある。

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