尼さんから学ぶ韓国の精進料理「韓国寺刹飲食文化体験館」

2016年07月13日

精進料理体験館01韓国旅行での大きな楽しみの一つが「食」だろう。さまざまなおいしい料理があふれているが、その中でも最近注目を浴びているのが韓国の寺院に古くから伝わる精進料理だ。伝統を継承しながらよりおいしく、栄養価の高い料理を提供するために発展を続けてきた。そのような精進料理を紹介する「韓国寺刹飲食(精進料理)文化体験館」が昨年オープンしたということで、さっそく訪ねてみた。

文/町野山宏記者

 

 

韓国の伝統が息づく街・仁寺洞の通りを抜け、北村へ上る安国駅からすぐのところに、韓国仏教文化財団が運営する「韓国寺刹飲食文化体験館」が開館した。ここ数年、韓国だけでなく、全世界的に健康食に対する関心が高まっているが、健康食に対する答えを精進料理に探す人も多い。テンプルステイなどを家族や企業単位で参加する中で精進料理に接する機会も多くなったことも精進料理への感心の高まりに一助しているのだろう。

しかし、精進料理を味わうためには寺を訪ねなければならなかった。また、寺に通っている仏教信者でなければ、寺に行って食事をいただくのは敷居が高い。外国人にとってはなおさらのことだろう。「韓国精進料理文化体験館」の開館は、ソウルの中心で気軽に精進料理に接することができる機会を与えてくれるだろう。

それでは、まず韓国の精進料理について簡単に紹介しておこう。韓国の精進料理は「寺刹飲食(サチャルウムシク)」と呼ばれ、日本の精進料理と似たところも多い。慈悲思想に基づいて肉類は一切使わない菜食主義であり、修行の妨げになる「五葷(ごくん)」と呼ばれるネギ科の植物(ネギ、ニンニク、ニラ、タマネギ、ラッキョウ)は使われない。

4世紀、三国時代に韓国に入ってきた仏教は高麗時代まで国の中心理念として栄え、朝鮮時代の弾圧の中でもその脈は途切れることなく現代にその伝統を伝えている。そのような1700年にわたる仏教の歴史の中で、精進料理も発展を遂げてきた。植物性の食材のみを使ってさまざまな配合と調理、加工法を開発して、よりおいしい料理をつくってきた。味だけではなく、栄養の面でもすばらしい料理だ。豆によって良質のたんぱく質を摂取し、植物性油脂によって不飽和脂肪酸の摂取できる。そして、多様な野菜によって豊富なビタミン、無機質、繊維質、薬用成分が豊富に摂取できるという驚くべきメニューだ。

このような精進料理の材料を栽培して料理し、食べるすべての過程は、そのまま仏教の修行の核となる要素だ。季節の食材を利用して、味の面でも栄養面でも満足できる料理をつくって食べることで心身が落ち着く。それだけでなく、さまざまな材料が自分の役割を果たして調和のある料理ができることを通して、すべての存在の大切さと縁を悟ることができる。材料を育てた人や、料理をつくった人たちの苦労と真心に感謝する。そして、適切な量を残さずに食べることも重要な要素だ。僧侶が食事をすることを「鉢盂供養(パルウコンヤン)」というが、このような思想が込められた言葉だ。

精進料理教室で「3ソ食」を体験

「韓国寺刹飲食文化体験館」は、韓国の精進料理について詳しく知ることができる。パネルと展示物で精進料理に込められた思想や、使われる材料、それにまつわる文化などについて知ることができるだけでなく、実際に精進料理を作って食べる料理教室も行っているということで、その時間に合せて訪問してみた。

安国駅1番出口を出てすぐのパン屋の2階、分かりやすいところだった。北村の韓屋村からも近く、韓国仏教曹渓宗(チョゲジョン)の総本山である曹渓寺からも歩いて5分ほどの距離であるため、韓国の伝統に接する旅のスケジュールに入れるには最適だ。

料理教室が始まる少し前に到着したので、展示を見学した。パネルには韓国語と英語で説明が書かれているが、食材や料理に使う道具などの展示を見るだけでも興味深い。精進料理のレシピを紹介するコンピューターもあり、希望すればレシピをプリントアウトすることもできる。ブックカフェのようなスペースもつくられており、精進料理に関する本をはじめ、健康食や自然食に関する本を閲覧できる。

精進料理体験館02

待っている間に料理教室についての説明を読んでみると、「3ソ食精進料理教室」とある。「3ソ食」とは、すべての料理を楽しく感謝する心で食べる「笑(ソ)食」と、過食をせずに、健康を維持する最小限の量だけを食べる「小(ソ)食」、できれば肉食をせずに菜食をしようという「蔬(ソ)食」のことだという。この3ソ食のメニューを学べるということらしい。

準備ができたところで調理室に場所を移し、料理教室が始まった。この日の先生は、永平寺(ヨンピョンサ)の尼僧で、二人の尼さんが補助でついた。参加者の多くは主婦らしい。合掌して挨拶し、いよいよ始まった。

今日のメニューはヨモギ豆粥とノリのチャンアチ(漬物)。ヨモギは体を温める効果があるため、夏の冷房病などにもよく、免疫力を高めてくれるという。大豆はナイアシン、たんぱく質、ビタミン、繊維質などの多くの栄養素を含み、「太らないチーズ」と呼ばれるほど栄養価が高いという。

まずは、前のテーブルで3人の尼僧が説明をしながら調理の実演を始めた。細かい調理のコツも教えてくれるので、一言も聞き漏らすまいと参加者たちは真剣に耳を傾ける。随時写真を撮りながら、メモを取る手が忙しい。それでも、尼さんのユーモアを交えた温和な話し方が場を和ませる。説明の端々に感じられる、人を思いやる言葉に、精進料理の本質を感じることができた。

精進料理体験館04

粥を煮るおいしそうなにおいが漂い始める頃、それぞれの調理台で実習が始まった。一つの調理台に4~5人が一緒に調理をする。お互いに初めて会った人同士なため、初めは人見知りをしていても、一緒に話しながら料理をするとだんだん仲良くなってくる。あちらこちらで楽しい笑いの花が咲きだした。補助をする尼さんやスタッフも手伝っておいしい精進料理ができあがっていく。

精進料理体験館03

お昼の時間を少し過ぎてお腹が空ききった頃に料理のできあがりの歓声が上がりだした。できた料理を美しく盛りつけするのにも余念がない。特にノリのチャンアチは、盛り付け方が調理台ごとに違い、お互いに隣のテーブルをのぞきに行くのも楽しみだ。粥の器も少しずつ違い、それぞれに個性が出ているようにも思える。

盛り付けた写真を撮り終えると、全員が一緒に「いただきます」。「記者さんもいかがですか?」と、尼さんの一人が勧めてくれて、味見をさせてもらった。

まずは粥を一口。ヨモギの香りがほんのりと漂うが、意外だったのは、大豆の味がしっかりと利いているということ。塩味を少しつけてはあるものの薄味のためだろうか、素材の味が生きている。お粥の味が物足りなくなってきたら、ノリのチャンアチをいただく。普通の薄いノリを材料に使っているが、数枚重ねて醤油に漬けてあるため、しっかりとした歯ごたえと味があって飽きさせない。ノリに乗せたごまの食感も小気味よい。

普段、化学調味料がたくさん入った食事ばかりを食べているため、おいしく感じられるだろうかと心配したが、驚くほどの味が感じられる。それだけ手間が掛けられ、研究されているためだろう。量も粥一杯で昼食には足りないかと思ったが、「3ソ食」の「小食」を実践するいい機会なのではないだろうか。

今回の参加者にも感想を訊いてみた。ある女性雑誌に紹介されていて参加したという韓国人の主婦は、「精進料理については聞いたことがありましたが、今まで触れたことがありませんでした。精進料理について知るいい機会になりました」と語った。

仁寺洞は外国人観光客にとっても親しみやすい場所であるためか、外国人観光客も夫婦で参加していた。現在、日本語の通訳は別途に準備されていはいないが、受付のスタッフが日本で暮らした経験があり日本語はできるため、日本語での参加も問題はないとのこと。メールで日本語での予約も可能だ。

 

韓国寺刹飲食文化体験館

地下鉄3号線安国駅1番出口を出て右に徒歩1分。安国ビル新館2階。
TEL: 02-733-4650
精進料理を学ぶプログラムは曜日ごとに違い、毎月メニューも変わる。「寺刹飲食」のサイト(http://www.koreatemplefood.com/)の「韓国寺刹飲食文化体験館案内」の項目で各月のプログラムを公示しているが、韓国語での案内しかないため、メール(silvereunbi@templestay.com)で問い合わせるのが便利だ。

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